消防官になるには?
試験、面接、対策について詳しく解説
消防官と言えば、現場で奮闘する憧れの職業のひとつ!
しかし、大学生が「就職先」として消防官を志望するとき、具体的に何をすればいいのでしょうか。「筆記試験や面接等があることは知っているんだけれど…実際どんな試験?」と悩まれている方も多いと思います。
本ページでは、「消防官になるために」必要な基本情報を解説していきます。
1.消防官になるには
2.受験できる人の条件(年齢、身体基準など)
消防官試験は、学歴に応じて試験区分が設定されていますが、誰でも受験できるわけではなく、受験するための条件、受験資格があります。受験資格には、「年齢要件」と「身体基準」があり、大卒程度の試験の場合、次のような条件になっています。
年齢要件(大卒程度)
自治体や年度によって異なりますが、21歳~35歳程度・大学卒業(卒業見込み)となっています。
自治体名 | 年齢上限 |
---|---|
さいたま市 | 30歳 |
千葉市 | 28歳 |
東京消防庁 | 29歳 |
横浜市 | 30歳 |
京都市 | 29歳 |
大阪市 | 27歳 |
上限年齢一覧表は、令和5年度試験の採用案内を元に作成しています。
受験する際は、必ず最新の採用試験案内をご確認ください。
身体基準(大卒程度)
消防官採用試験(大卒程度)では、身長・体重・胸囲・視力などの身体基準が定められています。多くの試験では各基準に「概ね(おおむね)」と記載されており、比較的緩やかな傾向にあります(一部身体要件を撤廃の自治体もあります)が、本格的な学習を開始する前に各人事委員会に確認しておくことをおすすめします。
消防官(大卒程度) | ||
---|---|---|
項 目 | 男性 | 女性 |
身 長 | 概ね160㎝以上 | 概ね155㎝以上 |
体 重 | 概ね50㎏以上 | 概ね45㎏以上 |
胸 囲 | 概ね身長の2分の1以上 | |
視 力 | 矯正視力を含み,両眼で0.7以上,かつ一眼でそれぞれ0.3以上 | |
色 覚 | 職務執行に支障がないこと。 | |
その他 | 四肢関節の運動及び基礎体力は,職務の遂行に支障がないこと。その他身体に異状がなく,諸機能が正常であること。 |
身体基準一覧表は、2022度試験の採用案内を元に作成しています。
受験する際は、必ず最新の採用試験案内をご確認ください。
Pick up! 東京消防庁の受験資格
東京消防庁は令和5年度実施の試験から、身長・体重・胸囲・肺活量の要件を見直し、身体全般において「消防吏員の職務執行に重大な支障がないこと」という規定に変更しました。他の自治体でも「身長・体重要件」が廃止されている例が見られます。
警察官・消防官を目指す方にオススメ!
3.消防官の採用試験スケジュール
消防官の採用試験スケジュールについて令和5年度の日程を参照しながら、ご説明します(年度によって試験日程は変わりますので、必ず最新の採用試験案内をご確認ください)。
一般的に、消防官の採用試験(大卒程度)は、「1次試験」と「2次試験」の2段階で実施されています。
1次試験では、「筆記試験」が課されます。1次試験を合格したら、2次試験に進むことができます。2次試験は、「人物試験」とも称されるように面接や集団討論等が実施されます。「人柄」重視の試験であることが分かります。また、体力検査も2次試験で実施されることが多いようです。2次試験を合格すれば、最終合格となります。
消防官採用試験の流れ
採用試験スケジュールと併願について
採用試験スケジュールは次のようになっており、試験日が異なっていれば併願することができます。例えば、東京消防庁Ⅰ類試験(東京都)は、年間に2回試験(5月、9月)を実施しています。
消防官(大卒程度) 1次試験実施日程(令和5年度実施) | ||
---|---|---|
日程 | 試験種 | |
5月 | 14日(日) | 東京消防庁消防官Ⅰ類① |
8日(月)~28日(日) | 大分市 | |
28日(日) | 堺市 | |
6月 | 4日(日) | 松山市 |
11日(日) | 前橋市 | |
18日(日) | 札幌市、青森市(地域広域)、仙台市、秋田市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、 相模原市、新潟市、富山市、金沢市、福井市、長野市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、和歌山市、 岡山市、広島市、高松市、高知市、福岡市、北九州市、熊本市 | |
8月 | 10日(木)~23日(水) | 佐賀市(中部広域) |
9月 | 2日(土)~18日(月) | 宇都宮市 |
4日(月)~19日(火) | 水戸市 | |
17日(日) | 盛岡市、山形市、甲府市、岐阜市、津市、大津市、鳥取市(東部広域)、松江市、 山口市、徳島市、長崎市、宮崎市、鹿児島市、那覇市 | |
24日(日) | 東京消防庁②、福島市 |
試験種横の○内の数字は実施回数(第何回目の試験か)を表しています。
上記の併願例は、あくまで1次試験の日程が被らなかった場合に併願を組んだ例です。自治体ごとの試験の傾向や試験日程を考慮して、無理なく対策可能な範囲で併願を組むようにしましょう。
年に複数回の試験を実施!
- 上記スケジュールのうち、日時が被らない場合には併願を組むことが可能です。自治体ごとの試験の傾向や試験日程を考慮して、無理なく対策可能な範囲で併願を組むようにしましょう。また例年、他の公安系の試験を併願する受験生も多くいますので、警察官試験等の日程についても併せてご確認することをおすすめします。
(☞5.消防官採用試験と他の公安系公務員の併願)
4.消防官採用試験の内容と対策
第1次試験
教養試験(択一式)・論作文・適性検査などの、主に筆記試験が実施されます。1次試験合格者のみが2次試験に進むことができるため、まずはこの筆記試験の対策を万全にすることが求められます。
まずは、どのような出題形式・傾向・内容なのか調べておきましょう。消防官試験の科目数は多く、試験科目をじっくり学習するには膨大な時間を要します。したがって、出題数に応じて的を絞った学習が重要です。
教養試験(択一式)
高校までに習った英語、国語、数学、社会のようなものが出題される試験で、マークシート式になっています。幅広い科目が出題されるため合格レベルに達するまでに時間がかかります。予備校を利用することで学習時間を大きく短縮させることも選択肢の一つに入れておきましょう。
令和5年度から東京消防庁の筆記試験の出題内訳が変わりました!
- 令和4年度までの筆記試験では、他の自治体と比べて自然科学の出題数が多く10問程度出題されていました。したがって、これまで東京消防庁を志望する受験生は、数的処理・文章理解・自然科学を重点的に対策する必要があったのです。
しかし、令和5年度から自然科学の出題数が減少し、その分、数的処理や国語・英文が増加しました。こうした変更によって、他の自治体の出題内訳と概ね一致するようになったため、対策・併願しやすくなりました。
数的処理の傾向と対策
傾向
数的処理はどの試験においても教養試験の中で最も出題数の多い科目です。従って、教養試験突破のカギは数的処理の攻略と言っても過言ではありません。公務員受験対策予備校の受験生と独学の受験生との差がつき易い科目です。
対策
過去問分析を基に頻出問題の解法パターンを学び、繰り返し問題練習を行うことが大切です。公務員受験対策講座を利用することで問題が解けるだけでなく、効率よく解くための解放パターンを身につけることできるので、1問あたりに掛ける時間を短縮することができます。数的処理の得点アップのためには、ある程度対策期間を要します。したがって、1日でも早く始めることに加えて、毎日解くことを念頭に継続して取り組む必要があります。
文章理解の傾向と対策
傾向
文章理解は、現代文・英文・古文で構成されており、問題のレベルは大学センター試験レベルです。多くの受験生が得意科目にしている傾向にありますので、確実な得点力が求められます。
対策
文章理解は、読解のテクニック・選択のテクニック、即ち「コツ」を体得することで、確実な得点源とすることができる科目です。繰り返しの問題練習はもちろんですが、普段から新聞や小説などを読み、文章を読むことに慣れておくことも、有効な学習法のひとつです。
社会科学の傾向と対策
傾向
社会科学は、政治・経済・社会・法律といった科目で構成されている、一般知識科目の中で出題数が最も多い分野です。頻出テーマを中心に、万遍なく学習することが求められます。
対策
政治では「英米の政治制度」「日本の選挙制度」「地方自治」「国際政治」などが頻出です。難易度自体は高くないため得点源とすることを目指しましょう。経済は、経済(時事)用語の説明が頻出であるため、新聞やニュース等で見かける用語を押さえておくと良いでしょう。社会は時事問題を含む場合が多く、新聞やニュースを日頃からチェックしておくことが求められます。法律は、憲法が超頻出です。とくに、憲法の「統治」分野が良く出題されることが分かっているため、政治と同様に得点源にすることを目指しましょう。
人文科学の傾向と対策
傾向
人文科学は、世界史・日本史・地理・思想・文学芸術といった主に文系科目で構成されています。どの科目も1~3問程度の出題ですが、各科目の学習量が膨大なため、頻出テーマに絞った効率的な学習をすることが大切です。
対策
社会科学の政治と重複するテーマがありますので、それらを優先的にインプットしていきましょう。世界史は近現代史や中国史などの頻出テーマから取り掛かりましょう。日本史は、世界史と同様に近現代史(とくに明治維新~現代)を重点的に学習しましょう。地理は、世界史や日本史と比べて出題範囲が狭く、インプットしやすい科目です。思想・文芸は、覚える量が少ないのでマスターしやすいですが、受験先によって出題がない場合があるので、まずご受験される自治体の出題状況を確認しましょう。
自然科学の傾向と対策
自然科学は、数学・物理・化学・生物・地学といった主に理系科目で構成されています。文系の受験生を中心に苦手としやすい分野ですが、基礎的な事項からの出題も多いので、頻出テーマを中心にひととおりの学習をしておくことが大切です。
傾向
自然科学は、数学・物理・化学・生物・地学といった主に理系科目で構成されています。文系の受験生を中心に苦手としやすい分野ですが、基礎的な事項からの出題も多いので、頻出テーマを中心にひととおりの学習をしておくことが大切です。
対策
自然科学は出題数が少なめなので、基本的な問題を中心に広く浅く取り組むことが重要です。数学は、出題分野の偏りが多く頻出の単元に絞った学習が必要です。物理は、苦手意識を持ちやすい科目ですが、興味の持てそうな単元や等加速度運動のような簡単に理解できる単元から取り組むと良いでしょう。化学・生物は、単純な暗記で対応できるところが多くあります。頻出度が高く、覚えられそうなところからインプットしていきましょう。地学は、地球の内部・岩石・火山・地震などが頻出で、かつ関連性が強いのでまとめて覚えていくと効果的です。
論作文試験
字数:600字~1200字程度/時間:60分~120分程度
消防官として業務に取り組む姿勢や消防行政に関する課題、一般的な社会問題に関する考察などが出題されます。
まずは文章の書き方の基礎を学び、論作文の予想テーマや今までの出題テーマを実際に自分の手で書くだけでなく、書いた答案を第三者に見てもらい、評価・添削をしてもらうことが、上達のコツです。
たとえば、令和5年度の東京消防庁Ⅰ類(第1回)試験の論文では、以下の問題が出題されました。
東京消防庁 出題テーマ例(令和5年度)
消防職員の使命についてあなたの考えとその達成に向けてあなたができることを述べよ。(800字以上1200文字程度/90分)
一見容易なテーマに見えますが、実際に書いてみるとなると何から書き出せば良いのか迷う方がほとんどです。また、論文試験では設問に対する解答のバランスも重要です。「消防職員の使命」についてだけ長々と書いてしまうと、他の触れるべき論点にあまり言及できず、大幅な減点になりかねません。このような留意点を知るためには、論文答練を行い、その答案をプロに添削してもらう必要があります。「書きっぱなし」では、正直上達のレベルに限界があります。公務員対策講座を受講すれば、プロによる添削を何度も受けることができ、合格レベルの答案に着実に近づいていくでしょう。
また、自治体ごとにある程度論文試験の傾向が分かっているものが多く、過去問答練→添削→書き直しといった一連の流れを繰り返していくことで、合格水準に達した状態で試験当日に臨むことができます。
適性検査
消防官としての適性を見極めるために、クレペリン検査・性格検査などが課されます(試験によっては2次試験で実施の場合もあります)。これらの検査の目的は、筆記試験では測定できない適性や性格を効率的に評価することにあります。具体的には、事務処理能力(速さと正確さ)と性格を判断します。
あくまでも、「職業に適しているか=消防官として適性があるか」を判断する参考資料となるものなので、配点があるわけではありません。基本的には対策を必要とするものではなく、試験当日の指示に従って取り組むようにしましょう。
第2次試験
全ての消防官採用試験で口述試験(個別面接)や体力検査が課されます。2次試験の配点比率は、どの自治体でも高まる傾向にあります。1次試験を通過してから、2次試験の対策を始めるというスケジュールでは間に合わない受験生が多くなってきているのも事実です。したがって、早い段階から筆記試験対策と並行して人物試験のための用意をしておく必要があります。
口述試験
口述試験(個別面接)は、全ての消防官採用試験で課されます。
面接の質問は、質問カードを中心に行われ、志望動機や自己PRについて、色々な角度から質問がなされます。また、試験によっては、時事について意見を求められることもあるため、自己分析・仕事研究はもちろんですが、日々の生活の中で新聞やニュースにも気を配り自分の意見をまとめておくことも有効な面接対策の方法です。
また、消防官試験に特有の質問も多くありますので、それらの情報を持っているかどうかによって合否を大きく分ける可能性があります。最終的には、試験当日に臨機応変に応答することになりますが、実際に過去に聞かれた消防官特有の質問内容や、合格者の受け答えを知ったうえで練習を行った人と、そうでない人では力の差がどうしても生まれてしまいますので、このあたりの情報は入念に集めておくことをお勧めします。さらに、自治体によっても質問内容には特色がありますので、併願先を含めた幅広い情報を得られるようにしておきましょう。
面接試験の質問例
- 志望理由
「なぜ消防官になろうと思ったか?」「なぜこの自治体なのか?」「本当に第一志望なのか?」など - やりたい仕事
「どんな仕事をしたいか?部署・部隊は?その理由は?」「希望しない部署に配属されたらどうする?」など - 自己PR
「長所は?」「短所は?短所の改善のためにやっていることは?」「長所・短所に関するエピソードは?」など - 大学生活(ゼミ・サークル活動等)
「今までで一番力を入れてきたことは?」「アルバイトで学んだことは?」など - 趣味・特技
「ストレス解消になっているか?」など - 併願状況
「併願先と志望順位は?」「民間企業は受けているか?」など
体力検査
体力検査は、1次試験または2次試験で多くの自治体で課されます。体力検査の内容は自治体により異なりますが、腕立て伏せ・反復横跳び・持久走などが実施され、受験者の体力をチェックします。勉強はもちろん大切ですが、勉強の合間などに、リフレッシュの一環として、ある程度の筋力トレーニングを行うなどしておくことをおすすめします。
回数を競って得点を稼ぐというよりも、試験当日の試験官の指示通りに、正確に実施することが求められますので、あくまでも「適否」を見られているというイメージで臨まれた方が良いでしょう。
体力検査例
- 腕立て伏せ
- 腹筋
- 反復横跳び
- 持久走
- シャトルラン(20m程度の往復持久走)
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5.消防官採用試験と他の公安系公務員の併願
消防官を受験される方は警察官・皇宮護衛官・海上保安官等、他の公安系公務員も併願されるケースが多くなっています。これらの試験は日程が被らなければすべて併願受験が可能です。
消防官以外の公安系公務員 第1次試験実施状況 ※令和5年度実施 | |||
---|---|---|---|
日程 | 試験種 | ||
4月 | 29日(土) | 警視庁警察官Ⅰ類① | |
5月 | 14日(日) | 東京消防庁消防官Ⅰ類① | |
6月 | 4日(日) | 皇宮護衛官 | 海上保安官 |
18日(日) | 政令市消防・市役所消防職A日程 | ||
7月 | 9日(日) | 市役所消防職B日程 | |
9月 | 17日(日) | 市役所消防職C日程 | 警視庁警察官Ⅰ類② |
24日(日) | 東京消防庁消防官Ⅰ類② | ||
1月 | 7日(日) | 警視庁警察官Ⅰ類③ |
試験種横の○内の数字は実施回数(第何回目の試験か)を表しています。
第一志望先の消防官試験と被らない日程で併願を組むと良いでしょう。とくに、本命とする志望先よりも早い日程で実施される公安系の試験がある場合には、併願先として受験することをお勧めします。ある程度公安系の公務員試験がどのような雰囲気なのか経験しておくことで、本命試験への臨み方も大きく変わってくるでしょう。また、複数の併願先を受験しておくことで万が一のリスクに備えることもできます。
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6.試験は難しい?どんな人が有利?
ここまで試験の内容やスケジュールについて解説してきました。「やるべきことが多そう!」「筆記試験が難しそう…」などと思った方も多いのではないでしょうか。実際にどの程度試験が難しいのか、どのような人が消防官に合格しやすいのかを解説していきます。
「筆記試験が一番大変」はちがう?
「消防官を受験したいけれども…やっぱり筆記試験がとても大変そう」という理由で、受験を断念するのは非常にもったいないです。近年の筆記試験のボーダーは、皆さんが想像されているよりも低調です。たとえば、令和5年度試験の実施状況を見てみましょう。
東京消防庁 (第1回) |
千葉市 | 横浜市 | 札幌市 | 新潟市 | |
---|---|---|---|---|---|
1次試験倍率 | 1.9倍 | 2.1倍 | 2.3倍 | 2.2倍 | 1.7倍 |
最も受験者が多い東京消防庁であっても、令和5年度(1回目)一次試験では2倍を切りました。もちろん市町村によって倍率は異なりますが、およそ2~3倍で推移していると言われています。
※令和5年度の東京消防庁(1回目)の最終倍率が前年(9.2倍)から低下した理由には、採用予定者数を増やしたことと受験者の減少が挙げられます。したがって、令和5年度の特殊な事情による結果の変動である可能性に留意が必要です。
筆記試験の倍率が2~3倍ということは、筆記試験の合格点も徐々に下がってきているという状況です。これまでは、「6割以上の得点が必要!」と言われてきたボーダーラインも、5割程度に落ち着きを見せてきています(安全圏と言い切れる数字で6割というイメージです)。5割というと、先ほどの教養試験の科目出題表のうち、全50問の教養試験であれば、25問正答すれば良いことになります。東京消防庁であれば、数的処理だけで16問、文章理解で9問なので、極論この2分野を完答してしまうだけで、ボーダーラインに達することになります。
ただし、これはあくまで想像上の話であって、数的処理を満点取れる受験生はあまりいません。したがって、数的処理を得点源にしつつ、足りない分の得点を他の科目で補っていくイメージで筆記試験を突破していく方法が現実的と言えます。
このような説明をしていると、「一切勉強しなくても良い科目があるということ…?」という質問を受けることがあります。答えは2パターンあります。1パターン目は、ある程度長期の対策期間を設けることができる方への回答です。時間をかけて念入りに対策できる方には、試験問題の難化に備えて、全ての科目を網羅的にカバーしておくことをおすすめします。
2パターン目は、対策に十分な時間を割けない方への回答です。数か月でボーダーラインに乗せる勉強が必要になりますので、科目をある程度絞り込んだ対策をおすすめします。しかしながら、当日の試験問題の難易度等によっては対応しきれない問題も出てくるため、そのようなリスクを回避するためにも基本的には1パターン目がベストと言えるでしょう。
面接試験が最終合格を決める?
多くの自治体で筆記試験における倍率が低調になっている一方で、「最終倍率」を見てみると、6~8倍といった数値が並んでいます。自治体の中には最終倍率が10倍を超える自治体もあります。一体どの試験種目が倍率を引き上げているのでしょうか。
筆記試験の倍率がそこまで高くないとすると、最終倍率を引き上げている要因はまさに、2次試験で課される「面接試験」と言えます。実際に、令和5年度試験の実施状況を見てみましょう。
札幌市消防 | 堺市消防 | 横浜市消防 | 広島市消防 | 松山市消防 | |
---|---|---|---|---|---|
人物試験倍率 | 2.8倍 | 3.2倍 | 3.4倍 | 4.0倍 | 5.9倍 |
広島市消防と松山市消防は、1次試験合格者のうち3次試験を合格した受験者の割合を示しています。
では、なぜここまで「人物重視」の試験傾向になってきているのでしょうか。ひとつは、受験者数が減少してきていることが要因として考えられます。したがって、筆記試験のボーダーを低めにして、できるだけ多くの受験生の合否を人物試験で判断したいという狙いがあるように思います。さらには、やはり消防業務は対人で行うものが大半ですので、受験生の「人柄」や「コミュニケーション能力」が重要になることも大きな理由でしょう。だからこそ、採用側の本音としては「人物」で判断したいという意図があるのでしょう。
さらに、試験ごとの「配点」を見てみるとその傾向は一目瞭然です。
〈消防官試験(大卒程度)の配点の一例〉
網掛け部分は1次試験で実施する試験
1 ( )内の点数は1次試験判定の得点。最終合否の判定は( )の点数を40点として換算した点数を用いる。
とくに最終合否を2次試験の得点のみで決定している自治体は、面接試験の配点比率が極めて高いことがわかります。合否を判断する要素のうち、面接試験が6割近くを占めることになるため、いかに「人物重視」かがお分かりいただけるかと思います。
「1次試験は何とか合格したけれども、教養試験の得点が低い…」という方がいたとしても、上記の傾向にあることを考えれば、「面接試験で十分挽回できる!」ということになります。したがって、1次試験を要領よく計画的なスケジュールで突破してしまえば、面接試験の一本勝負に近い状態に持ち込むことも自治体によっては可能なのです。ただし、配点がわかっている以上、他の受験生も同じような戦略で面接対策を入念に行ってくるため、それ以上の対策の質と量が求められるでしょう。
消防官には、こんな人を求む!
① 有資格者や優秀なスポーツ成績を収めた人
消防官試験には、各種資格やスポーツでの活躍が得点に換算され、加点される制度があります。加点対象になる資格や加点の幅は自治体によって異なりますので、受験する自治体の採用案内をご確認ください。一例として、【令和5年度東京消防庁】の加点制度について見てみましょう。
〈加点対象となる資格・経歴等の例〉
(令和5年度東京消防庁「評定対象となる資格・経歴一覧表」をもとに作成)
② 多様な経験がある人
消防官に必要な経験値には様々なものがあります。部活動の経験やアルバイト経験、大学のゼミ研究といった学生生活における経験はもちろん、インターンシップや消防署見学、ボランティアなどの消防官の業務に直結するような経験があると望ましいでしょう。
とくに、消防官の業務に直接繋がる経験は試験に有利に働くでしょう(加点があるというわけではありません)。消防官として働くイメージを鮮明にできるだけでなく、面接試験の応答でも役立てることができる一石二鳥の経験です。実際に消防官の方と触れ合う機会は大変貴重な経験です。現場の生の声を聞くことで、より具体的な消防官の理想像を描くことができるでしょう。多様な経験のうち、ボランティア活動やイベント情報の一例をお示しします。
・上級救命講習
普通救命講習(自動体外式除細動器業務従事者)の内容に傷病者管理、外傷の応急手当、搬送法を加えたコースです。初めて応急手当を学ぶ方も対象としています。
・応急手当普及員講習(¥10,000程度必要。自治体により異なります。)
普通救命講習(自動体外式除細動器業務従事者)の内容に傷病者管理、外傷の応急手当、搬送法を加えたコースです。初めて応急手当を学ぶ方も対象としています。
・消防団
災害時の活動
災害現場での消火をはじめ、地震や風水害といった大規模災害発生時の救助・救出、警戒巡視、避難誘導、災害防御など様々な現場で活躍します。
平常時の活動
応急手当の普及指導、住宅への防火指導、特別警戒、広報活動などに従事します。
女性消防団員の活動
住宅用火災警報器の普及促進、一人暮らしの高齢者宅の防火訪問、住民に対する防災教育及び応急手当の普及指導等においては、特に女性消防団員の活躍が期待されています。また、消火活動や後方支援、操法訓練にも参加しています。
学生消防団活動認証制度があります!
消防団員として活動した学生に対し、市町村長が「学生消防団活動認証証明書」を交付するものです。この証明書は、就職活動の自己PRなどで活用できます。なお、本制度は大学や経済団体へ周知されています。
<入団要件>
消防団の入団資格は、市区町村ごとに条例で定められていますが、一般的に18歳以上で、その市区町村に居住(または勤務・通学)している人なら男性でも女性でも入団できます
・東京消防庁災害時支援ボランティア
消防職員の指導と助言により、以下の支援活動を行います。
① 応急救護活動
② 消防署内での後方支援活動
(給食支援活動、仮設トイレ等の設定、帰宅困難者に対する道案内等)
③ 消防署外での後方支援活動
(食料・飲料水の搬送、簡易水槽の設定など)
④ 消防用設備等の応急措置支援
<登録要件>
原則として東京消防庁管内に居住または勤務・通学されており、震災時等に消防署の支援を行う意思のある15歳以上(中学生を除く)で、次のいずれかの要件を満たす方です。
・普通救命講習を修了している等、応急救護に関する知識を有する方
・過去に消防職員、消防団員、消防少年団員として1年以上の経験がある方
・震災時等、復旧活動時の支援に必要となる資格や技術(消防設備士、危険物取扱者)を有する方
※詳しくは、お住いの自治体HPをご確認ください。
・見学会
消防署の施設や消防車両、実施している業務等を見学するものです。消防署の雰囲気を感じ、仕事内容を目にできる良い機会です。消防の仕事に興味がある方、消防官になりたい方に適したイベントです。なお、採用試験に関する情報について知りたい方は、業務説明会に参加するよう案内されています。
・業務体験
実際の消防署で行われる体験です。訓練施設や執務室、車や資器材等、消防署ならではの物事に触れることができます。また、様々なキャリア、職種の方の話を聞くことができます。理系の知識が活かせる、最前線で活躍している女性がいる等、意外な驚きもあるかもしれません。自分の気になっていることを質問してみましょう。
・オンライン座談会/オンライン個別相談会
東京消防庁の若手職員が、消防官の職務内容、皆さんが抱えている不安や疑問などにオンラインで答えてくださいます。消防官業務の疑問を解消するために参加してみてください。個別相談会はもちろん、マンツーマンですので採用係の方に直接お話を伺える絶好のチャンスです。
・体験型説明会(1dayインターンシップ)
防火服の着装や放水、救急車内での活動体験、ロープ登はん体験などの体験ができます。消防業務や東大阪市消防局の魅力を体感することを目的に体験型説明会(1dayインターンシップ)を開催しています。
◎ 消防隊業務体験…防火服着装体験・放水体験・暗中検索体験
◎ 救急隊業務体験…救急隊活動体験・救急資機材取扱い体験
◎ 救助隊業務体験…ロープ登はん体験・要救助者救出体験
なお、東大阪市消防局の公式HPでは、「インターンシップへの参加の有無が採用に影響することはありません。」と明記されています。
いずれの経験も全て面接試験で活用することができます。面接ではどこにでも書いてあるような表面的な応答よりも、その受験生にしか話せない、具体的なエピソードに基づく応答の方が評価は高くなるでしょう。消防官に必要な「適性」を身につけることで、面接官に「ぜひ来てほしい!」と思ってもらえるわけですが、そのために、多くの経験値を得て、「3~4人に1人」の競争試験を勝ち抜きましょう!まずは、身の回りにどのような経験の機会があるか調べてみるところから始めましょう。自主的に動いた分だけ、経験値は身についていきます。
警察官・消防官を目指す方にオススメ!
7.学習期間の目安は?
筆記試験、体力試験、面接など消防官になるための試験は準備をすることがたくさんあります。確実に合格できるようになるにはどの程度の学習期間が必要でしょうか。
理想的な目安としては、1年間かけて対策することが望ましいでしょう。1年間の対策スケジュールを例にご説明していきます。
早い方で新年度を迎える1か月前の3月に対策をスタートします。ただし、闇雲に対策を始めることは得策ではありません。ある程度、ゴールを見据えたうえで対策をスタートさせた方が効率的です。たとえば、TAC警察官・消防官講座では、各科目の講義よりも前に、「合格必勝スタートアップ講義」と題して、消防官等の公安系公務員試験の概要や、近年の試験傾向、理想的な学習スケジュール、効率的な対策方法について解説しています。
独学であれば、ある程度志望先を想定したうえで、志望先の情報収集、テキストの選定、学習スケジュールの作成、対策方針の決定など、すべての準備段階をおひとりですることになります。とても大きな負担であり、何より相当時間を要してしまいます。さらに、この下準備が整わないと、その後の継続的な学習に結びつかず、1か月程度で「燃え尽きてしまう…」なんてこともあります。
したがって、予備校の講座を受講するメリットは大きいと言えます。最終合格に向けて逆算されたスケジュール、洗練されたテキスト・問題集、気軽に利用できる講師によるフォロー制度、直近の合格者による試験の復元情報など、充実の仕組みがあると最終合格可能性はぐんと高まるでしょう。独学者との差はまずスタート時点でつくと言って良いでしょう。
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3月
数的処理 スタート!
そして、それらの環境が整ったら、各科目の対策に移っていきます。優先的に取り組むべき科目として、真っ先にあがるのが「数的処理」です。「4.消防官採用試験の内容と対策」でもご説明したように、一番出題数が多く、加えて、得点に結びつくまでに時間を要するため、真っ先に対策する必要があります。大半の受験生は、この数的処理に一番時間を割き、試験前日まで対策を行うことになります。それだけ、公務員試験において数的処理は最重要科目という位置づけなのです。 -
4月
社会科学 スタート!
数的処理と並行して、早い時期から「社会科学」の対策もスタートさせることが理想です。他の知識系科目と比べて出題数が多いことや、基本的な内容が問われる傾向にあること、さらに暗記しやすい(=得点につながりやすい)ことなどが優先順位が高い理由です。とくに、法律・政治に比重を置いて学習を始めると良いでしょう。それら科目について基礎知識を持っていると、後々学習することになる時事の分野も覚えやすくなりますので、高い効果を期待できます。 -
6月
面接対策 スタート!
そして、TACの講座であれば、面接試験本番のおおよそ1年前の6月から面接対策(合格必勝ゼミ)がスタートします。【試験対策ゼミ×面接対策講義(各10回)】の構成で展開していますので、熾烈な争いになる消防官の面接試験を勝ち抜くスキルやコミュニケーション能力を身につけることができます。この時期から面接対策をできる点は、TAC受講生の大きな強みと言えるでしょう。独学の場合であれば、この時期から志望先の情報収集や自己分析を少しずつ始めていきましょう。 -
7月
論文対策 スタート!
7月になると、論文対策がスタートします。論文も配点比率が高く、合否を左右する重要な科目です。数的処理と同様に上達には時間を要するため、夏ころから取り掛かると良いでしょう。まずは、公務員試験における文章作法や解答方法をインプットしていく必要がありますので、「いきなり答練!」という対策はお勧めしません。適切な「論文の型」を習得することから始めましょう。秋・冬ころから過去問を用いた論文答練を始めるとベストです。実際に、過去の合格者は12月ころから、複数自治体の過去問を使って1週間に1~2本は執筆して、プロによる添削を受けられていました。「安定して良い評価をもらえるまでに時間がかかった」とお話されていました。 -
9月
文章理解・自然科学・人文科学 スタート!
9月ころから、受験生が得点源にすべき「文章理解」をスタートさせます。現代文・英文は出題数が多いうえ、正しい方法で演習を繰り返していけば、得点に結びつきやすい分野です。したがって、多くの受験生が得点源としています。概ね、正答率8~9割を目指して対策していくと良いでしょう。
さらに、自然科学・人文科学もこの時期からスタートします。各科目とも範囲が広く、「全ての科目に100%注力…」という対策方法だと、時間が足りません。したがって、「広く浅く」を原則として、頻出論点に絞った学習を進めていくことになります。自治体によっては、自然科学・人文科学からの出題がない場合もありますので事前に出題科目を確認しておきましょう。
残る期間は、過去問を中心とした問題集を繰り返して得点力を上げていきます。
数的処理・文章理解 > 社会科学 > 自然科学・人文科学
という基本的な優先順位を守りつつ、対策の比重を意識しましょう。安全圏として最終的に目指すべき正答率は6割です。1年間かけて対策される方は、ぜひ目指していただきたい正答率です。
なお、面接対策については、年末ころから面接カードの作成方法を習得し、これまでの自己分析の成果として文章化していきます。そして、年明けから徐々に模擬面接練習を行っていくと良いでしょう。TACでは、6月からスタートしている全10回の「合格必勝ゼミ」の中で、毎回のグループワークをはじめ、面接演習を実施しています。さらに、本格的な実践練習の機会として講師との模擬面接を通年実施することができますので、時期を選ばず、早い段階から「最終合格のための突破力」を身につけられるのです。
1年間を目安に、逆算されたスケジュールで筆記試験を効率的に攻略し、難関の人物試験を勝ち抜くための人間力を磨いていきましょう!
警察官・消防官を目指す方にオススメ!
8.まとめ 消防官になるには?
消防官になるには、逆算されたスケジュールが必須です。まずは、試験日までどのくらい日数があって、どのくらいの学習量が必要なのか、さらに1日に捻出できる学習時間を整理してはじめて試験対策のスタートです。
つまり、難易度や必要な学習量、効果的な対策方法、優先順位等について「知ること」が重要なのです。独学の場合、そのような情報を一から自分で探らなければなりません。資格の学校TACであれば、高い合格実績をもとに作られたカリキュラムやテキスト、フォロー制度があります。公務員試験という「情報戦」を勝ち抜くために、自分に合った環境を整えることからはじめていきましょう。
この記事の著者 TAC警察官・消防官 担任 山口 輝 講師
大学時代、公務員試験において多数合格者を輩出していた公共政策ゼミに所属し、国内を中心とする広範な社会問題についてグループプロジェクト型の研究を行ってきた。その後、大学院に進学し行政学(ガバナンス論)を専門に、公務員(官僚)と国民の相互作用について研究。特に、政策形成過程において公務員(官僚)がどのように関わり、責任を果たすのかといった行政責任論に及ぶテーマで論文を執筆した。現在は研究の成果を生かし、政治学系科目をメインに講義を担当。他にも、論文対策、面接対策の指導も行い、端的・的確な指導と持ち前の包容力で、受講生から熱い信頼を受けている。
警察官・消防官 合格への第一歩はココからスタート!