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#534 インプットの前にまず過去問題を読む
前回、効果的な学習法として「問題を自作できるようになる」というやり方を紹介しました。今回は、その前段階として、「まずは問題を覚える」という学習法をお教えしましょう。
これはなんのことはない、多くの方々が薦めている「まず最初に過去問を読みましょう」ということです。でも実践する人は本当に少ないんですよね。ほとんどの方は、まずテキストで論点をしっかり勉強してからでなければ、問題を解こうとしても解けるわけないんだから意味がない、と誤解しています。
誤解というのは、まず過去問を「解いてみろ」と言われたと思い込んでることなんですよね。そんなこと勧めませんよ。解けるわけないじゃん。そうじゃなくて過去問を「読んでみて」と言ってるんですよね。
試合でどんな攻撃を受けるのか?がわかっていなければ、その対処のイメージも湧かなくないですか?野球で言えば、まず一回打席に立って、ピッチャーに球を投げてもらいましょうということです。それを打てとは言ってませんよ。打席で球を見てきてくださいということです。その経験なしに、いくら素振りをやろうが、筋トレをしようが、投げられた球を打てるようにはならないと思いませんか。
例えばですが、東大を受ける人は、まず東大の入試問題を何年か分読みます。解かなくていいんです。2003年の超有名問題「円周率は3.05より大きいことを証明せよ」など、ひと通り読むんです。それで、なるほどこういう球を投げてくるのか、そのうち7〜8割はうちかえせるようにならなきゃいけないのか、とイメージを湧かせるわけです。その体験を高校3年生になってからする人もいれば、小学5〜6年生のころから「読むだけは読んでみる」という経験を積んできた人もいます。しかし一度も過去問を見たことがないという受験生は、ほとんどいないんじゃないでしょうか。
USCPA試験でいえば、膨大な過去問が開示され、それをもとにしたベッカー社の擬似問題がこれまた大量にあるわけです。解かなくていいから(繰り返すが解けるわけないので)、とにかくまず読むことです。読んで、このdepreciation とかいうナニかがわかってないとこの問題解けないんだな、などと眺めて行けばいいのです。
問題を読んだくらいで出題傾向を覚えるとか問題のパターンを把握するなんてことも、よほどの天才でなければできませんよ。一度読んで忘れてしまってよいのです。でもそれを何度も繰り返してトレーニングしていけば、試合本番でパソコン画面にパン!と問題が出題されたときに「これはどの範囲の知識を問うものなのか」をすぐに見抜けるようになります。
論点の理解と、試合本番でのアウトプットを同時に追求するのは、社会人受験生にとっては時間のムダです。それができる超・優れた方のまねをしてはいけません。あなたはオータニさんや藤井聡太さんではない。それは傲慢というものです。
謙虚に、まずは「どのような問題が出るのか」を身につけて、その後で論点や解法の理解を深める方が、ふつうのキャパしかないわれわれにとっては効率的なのです。
言い換えますと、「大量の情報を覚えて→その知識を実際の問題解決に応用できる」という順番は「正攻法」なのです。よっぽどの方でないと、そのやり方で短期突破は難しい。
試験を受かるという目的のためだけであれば、「本番では問題という形で何が求められるのか?を理解し→それに対応する知識を身につける」という順番のほうが、ずっと効果的なのです。
問題の形式を先に理解しておくことで、試験本番での問題を「処理」する方向性を踏まえたうえで論点を学ぶことができます。「さばき方」がなんとなくわかった上でサカナを釣るようなもんです。
それって、サカナが釣れたはいいけど、ところでコレどうやってさばくのかわからない、というよりいいと思いませんか。いろんな論点を抽象的な知識としてアタマに詰め込んでいても、試験本番で問題が解けなかったら何の意味もないんです。
ところで、これまでに提案した学習法は、「帰納的」なアプローチです。具体的な問題とその解法を先にアタマに入れて、その後でその論点や原則を理解していく。
「帰納法」とは、特定の例や事例から一般的な原則や法則を導き出す思考法です。これに対して「演繹法」とは、一般的な原則から具体的な事例や結論を導き出す思考法です。理論や原則を先に学び、その後で具体的な問題を解いてみる、というのが「演繹的」なアプローチ。
日本の社会においては、具体的な事例にその場その場で対処していく「帰納的」なアプローチが一般的です。悪く言うと「対処療法」ってやつですが、これはわれわれには馴染みやすいのです。
会社は「演繹」のふりをしないといけないことが多いです。中長期・短期の「戦略」「勝ちパターン」を決めて、そこから「演繹」される具体的施策を効果的に実施している.....株主などステークホルダーにはそう説明しないと格好がつきません。ですけれども、現実の日々は「帰納」ですよね。具体的な問題解決を組織として膨大にこなしていくなかで、おぼろげながら「勝ちパターン」が後付けで見えてくる、というのが実相じゃないでしょうか。
そのことに気づいた米欧企業は、ERPやSFAなどのDX基盤を通じて会社でおきている具体的問題解決を集め、そこから経営判断に役立つ「勝ちパターン」や、危機につながるリスクの芽をみつけるのにつかって居ます。日本企業も、見栄を張らずに「帰納」をデジタルで運営するスタイルにすればのしよいのに、なぜかいつまでも「演繹法」をアナログで回すことにこだわっていますね。日本固有のケイエイキカク文化です。
なんて余計な話はともかく、みなさん個人の試験勉強は「帰納的」にやってみてはいかなでしょうかという提案でした。
TAC USCPA講座/草野龍太郎 講師