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2023/07/07
成功し続ける方法/532回<AIは経理業務をリプレイスするか>
#532 AIは経理業務をリプレイスするか


ChatGPT4.0を活用した業務改革が、あちこちで進められています。AIに聞けばかなりのことが調べられるようになって来たからです。

すでに起きたことだけでなく未知のことについても、「どういうことが、それぞれどういう確率で起きるか」を計算することなんかが、かなり容易かつ安価にできるようになってきました。データさえ十分に用意できれば、ですが。

経営や事業の判断をする際に、「AIはなんと言ってる?」「いちおう聞いとけ」と調べるのは、これから常識になると思います。「おいおい、まさかこれ、ヒトが考えたり調べたりしただけじゃないだろうな」「AIに何にも聞いてないってどういうこと?」という感じ。

もちろんAIはあくまで「参考になる」だけでしょう。「AIが言ってるからそうする」というようなリーダーには誰もついていきません。しかし、だからと言うて「AIをまったく使わない」という頑な方も考えもの。収集できる情報が競争相手と比べてあまりに貧弱になるからです。

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さて、AIが職場でリアルに活躍するようになってくると、「知識を暗記するだけでできるような職業はなくなる」という意見が必ず出てきますよね。

確かにその通りかもしれません。もしも本当に「なにかを暗記しているだけでできてしまう仕事」があるならばです。でもですよ、そんな仕事、ほんとにみたことあります?

「会計士や税理士はAI時代になくなる」というような記事を書く方々は誤解しているんですよね。会計や税務の仕事なんて、

なにか質問を受けて

それに対して記憶した知識だけを使ってアウトプットを出す

というようなことだと思い込んでいるんでしょう。我々がただの「性能が悪い旧式のAI」であるから、新型AIに取って代わられるのは当然だというわけです。

けっこう。ですけど、我々ポンコツAIだろうと、新型の素晴らしいAIだろうと、正しく答えさせるには、まず正しく質問してくれなければいけません。記者さんたちは、「経理プロに正しく質問できる方々」がほとんどいらっしゃらないことを、わかっているのでしょうか。

また、AIの答えがほんとに正しいのかどうか、そのウラをとる能力も必要です。まさか「新型AIの答えは、ぜんぶ鵜呑みにする」なんてこと、ないですよね?

さらには、AIが複数の答えを出した時にどうするか。目の前の現実とてらしあわせてどれが最適解なのかを、選択しなければいけない。

現実は、そういうことができる方々ばかりではないのです。だから我々は、「知識の暗記」だけでは、全く仕事にならないのです。もっと言えば「暗記した知識をアウトプットするだけで済むような仕事」であったらどんなにラクかとも思いますよ。

簿記の試験で、あれこれ条件(データ)を与えられて「はい、記帳しなさい」「決算仕訳を入れなさい」という問題があります。それはAIにも解けるようになるでしょう。しかし現実の経理のお仕事というのは、その「あれこれの条件(データ)」を現場から集めるまでが99.9%なんですよね。

ヒトがデータ集めを効率よくできるようにするためにERPがあり、ヒトがERPを使いこなすためにAIやRPAなどの周辺技術がある。それでもうまく行かないからヒトがコミュニケーションをがんばるわけです。

AIがそれらのヒトの仕事をリプレイスできるようになるのは理論的には可能でしょう。しかしそのためには、膨大なコストがかかる。誰もそれを負担できないのではないでしょうか。

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ライターさんは我々経理の現場に何日も通って、そこで我々の仕事の《実相》を見たことがあるのでしょうか?あるわけないですよね、だいたい、相撲部屋じゃあるまいし、今どき外部の記者を入れて仕事ぶりを観察させるような経理部署があるわけないです。

ですから記者さんたちは(学者さんたちも)、若干の取材をもとに自分の想像をふくらませているだけなのです。AIで正解が「チーン」と出てくる近未来のオフィスを思い描いてるわけですね。

彼らはそうやって煽り記事を売るのが仕事なんでしょう。しかしそれによって我々のプロとしての価値が下がるとすれば困ったことです。「経理や税務はAIがリプレイスする仕事」というデタラメをおっしゃる方が身近におられたら、それは我々みんなのフィーを下げる営業妨害みたいなもんです。ていねいに反論して、実相をわかってもらうようにしていきたいですね。


TAC USCPA講座/草野龍太郎 講師
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