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#530 利他こそが最高の自利(3)
「自分がいちばん大事、自分がよければそれでいい」
そう考える人こそ利他に徹するのが、いまや最も合理的である。なんと我らがIFRS財団もそう主張しているのです。
IFRS財団が利他を何と呼んでいるかと言えば、言うまでもなく「サステナビリティ経営」です。彼らは今やサステナ経営の普及を活動方針のど真ん中に据えています。
・ IFRS財団は、2021年11月に「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立。
ISSBは、投資家の情報ニーズを満たす高品質なサステナビリティ開示基準を開発することを目的としている。
・ IFRS財団は、2023年夏に「IFRSサステナビリティ開示基準」の最初のプロトタイプを公表。2024年に発効させる予定。
開示基準は2つで、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(S1)と気候関連開示(S2)。
・ IFRS財団は、2023年2月にカナダで初めてのサステナビリティシンポジウムを開催。
45を超える国や地域から、1,000名以上の企業や投資家、規制・政策当局等のステークホルダーが参加。
上記のIFRSサステナビリティ開示基準の仕上げに向けた議論や適用に向けた課題、キャパシティビルディング等、多面的な議論が行われた。
などなど。
IFRS財団が主張しているのは、企業からステークホルダーへ開示すべき情報は、もはや伝統的な財務情報(財政状態と経営成績)だけでは全く足りないということなんです。
これからの時代、企業の開示が投資家たちの意思決定に役立つためには、「企業がどのくらいサステイナブルなのか(持続できるのか)」がわかるものでなければいけない、というのです。
そのためには、以下の5つの情報をセットにして開示せよという。
1、環境対策
2、人的資源活用
3、社会との関わり
4、ビジネスモデルとイノベーション5、経営者の能力とリーダーシップ
そうなんです。企業が「利他経営」をしているかどうかを、包括的に開示しなさいということなんです。
ここで一点誤解していただきたくないのは、これは「地球環境にとって」サステイナブルかだけの話ではなく、「企業が」サステイナブルかどうかを見極めようという話だということ。なので、「利他テーマ」は環境対策だけではなく5つあるわけです。
もう一点、IFRS財団は「正義」「倫理」の観点から利他経営を説いているわけではないということ。サステナ経営にとりくむほうが企業のパフォーマンスが(短期的にも)よくなると思いますよ、とおすすめしているわけです。
具体的に、「利他=サステイナブル経営をしている企業」のほうが、していない企業よりもどうして業績がよくなるかというと・・・
・製品やサービスがユーザーに愛好される可能性が高い→収益が増える
・不買運動を起こされる可能性が低い
・安定的に原材料を調達し続けられる可能性が高い→費用が増えない
・巨額の罰金・課徴金・慰謝料などをとられる可能性が低い
・資本調達コストが低く済む可能性が高い
などなど、というようなことで、収益が増えて費用が抑えられ、資本コストも低く済めば、当然に財務報告される数字がよくなる。だから利他経営をしなさいよとおすすめするわけです。
逆に言えば、企業が利他をする必要を感じないないなら感じないなりに、その旨をと堂々と明瞭に開示してくださいということ。あとは投資家はじめステークホルダーから「この会社はサステイナブルか?(いまのままもつのか?)」を判断してもらいましょう、と言うロジックです。
IFRS財団のいっていることは、従来の「統合報告」の概念に大変近いですね。現に、冒頭に紹介したISSBは、既存の「統合報告ガイドライン評議会(IIRC)」などを吸収合併しています。
企業の株主も経営者も、自分たちの私利を追求するなら、手っ取り早いのはその企業を利他経営すること。超短期の自利にばかりフォーカスしている企業は、遠からずパフォーマンスが失速する。
これはまさに日本の大実業家・渋沢栄一さんが『論語と算盤』で力説されたこと。同書は1916年(大正5年)の刊ですが、それから100年あまり、日本の経営者が果たしてどのくらい「利他経営」を実践できてきたでしょうか?
いままさに「利他こそが最高の自利戦略」という時代の大波がきたのですが、これまでの「自利経営オンリー」の経営者さんにとっては、ちょっと理解の限界を超えちゃってるかもしれませんね。
TAC USCPA講座/草野龍太郎 講師