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#518 経理部門であっても、間違いを「損切り」できる組織や個人は、強い
言いたいことはタイトルの通りである。自らの間違いをすぐに「損切り」できる組織や個人は、それだけで恵まれている。
心の中で「損切り」したいと思っても、それが許されない【立場】に置かれている人は少なくない。というか、ほとんどの方が「損切り」したくてもできない【立場】にいる。
「損切り」どころかそもそも「間違えること」が許されていない【立場】の方々もおられる。いわゆる「無謬(むびゅう)であること」を義務付けられている方々だ。みなさんのような経理部門の幹部も、そうなのではないか?
「間違えること」すら許されないとなると、まずよろしくないのは「間違えた時の備え」ができないことだ。「万一のために備えて.....」などと言おうものなら、「キミは、やる前から、失敗するかもしれないなどと考えておるのかね?!そんな弱気なことでどうするんだ!!」と一蹴されてしまう。
なかには「日本には言霊(コトダマ)」というものがある。『万一に備えて』などと縁起でもないことを言うな!!」と怒る方もいる。会社だけでなく、たとえば高齢の親御さんに「万一のときに連絡すべき方のリフトをください」と言えなくて困っている方も多いだろう。
さらに「間違ってはいけない」方々がほんとうにまずいのは、現実に間違えてしまったときだ。
その間違い自体が「無かったこと」にならなければいけないため、隠蔽のために膨大なコストが投入される。ウソに嘘を重ねるために、時間とお金が浪費される。そしてしわ寄せがくるのは「現場」だ。
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「間違ってはいけない【立場】」の方を、これ以上増やしてはいけない。われわれが、これからの「強い」組織や「強い」個人を育てるには、とにかくまず「間違いを損切りできる環境を作る」ことだ。
ヒトは【誰でも】【かならず】間違う
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「間違えること」自体は恥ではない
↓
間違いを「損切り」できず、隠蔽に隠蔽を重ねることこそ、ほんとうの恥
そこを徹底するところから始めよう。
ついで、
「間違いに気づいたら、30分以内に報告すれば、けっしてとがめない」
と宣言し、その約束を守ることである。
あなたがそう宣言すると、かならず中間管理職さんたちがやめてくださいと言ってくる。
「それだと若い者が甘える!」
「ミスは厳しく罰してカラダで反省させないと!」
しかし、そこは日和ってはいけない。ミスに厳罰を課せば隠蔽されるだけだと説得する。そして、われわれのチームは、もはや「間違いがなかったことにする」ための隠蔽に、貴重なリソースを割いている余裕がまったくないことを理解してもらおう。
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いいかえると、いまどきの「弱い」組織は、上から下までメンバーがことごとく「自分の間違いを隠蔽する」ことに多大な時間を浪費している。
もともと人間は、だれでも【性弱】である。そこに持ってきて、個人の「間違い」を責めるような組織では、隠蔽の「動機」も「正当性」も申し分ない。さらに言うと「機会」も十分だ。お互いがそれぞれ自分のキズを隠しあっているわけだから、隠蔽が告発される心配も少ない。
組織を率いる立場であるみなさんは、目に見える(explicit)費用のカットだけにきゅうきゅうとしていてはいけない。それよりもはるかに膨大な、目に見えない(implicit)ムダ遣いが、長年にわたって放置されてきたことに気づいていただきたい。
逆に言えば、あなたの先輩方には手を出すことすらできなかった「聖域」に、いまの時代なら切り込めるかもしれない。「間違い」をすぐに報告して、それを躊躇なく損切りできる組織に変えれば、それは何よりもまず「ほんとうのコストリーダーシップ戦略」への第一歩になるということだ。
そのためにはまず、あなた自身が個人として「間違ったら損切りできる」ように変わること。そして、隠蔽のために割いてきた、時間とお金と、なにもりもあなたの「プライド」を、これ以上浪費するのをやめることだ。
TAC USCPA講座/草野龍太郎講師