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2023/03/16
成功し続ける方法/517回<経理プロがわかっておきたい「結局、事業のデジタル化って何なのか?」>
#517 経理プロがわかっておきたい「結局、事業のデジタル化って何なのか?」


「我が社も来期はそうとう苦しいんだけど、それでもデジタル化投資は、先送ったら、ヤバいんかね?」

ある地方で企業経営者さんに尋ねられた。嘘ついても仕方ないので、正直に答えることにした。

===

ううう、残念ながら、今はもはやお考えになってるよりずっとヤバいです。「今までのルールに対応するためのデジタル化投資」には、もう意味がなくなりました。

御社のビジネスが(デジタル化できなかったから)危機だとか、もうそんなんではないんです。いまは、御社のビジネスモデルそれ自体が危機、という事態なんですよ。

つまり、御社のビジネスモデルは、マルっとデジタル化できちゃうでしょう?え?そんなことはない?お客様の中にはインターネット使えないパソコン使えないという方々がたくさんおられる?あー、そこからしてお考え違いなんですけれども。

スマホなどを使えないとか、なんでもすぐ電話してくるとか、そういう方々のために手取り足取り膨大な時間を使うのが御社のサービス体制ですよね。これは、御社がそれだけの人件費を負担できるから可能なんですよね。

(あ、御社が従業員さんにきっちりと報酬払っていると仮定しての話ですが)

そういう方々のことなど考えない新興企業が、サービスまるごとデジタル化しちゃったら、その新興企業さんにコストで勝てますか?当然勝てないですよね。

===

というのも、残念ながら、ついにコストアップ圧力によるインフレが来てしまったんです。新興企業さんは、御社のマーケットを根こそぎ奪うために、「コストはアップする、それなのに不況」という状況が来るのを、こころ待ちにしていたと思いますよ。

それは、御社たちのような「従業員のがんばりとチカラでどうにかする」という先行企業が、人件費高騰で動きがとれなくなるからです。人件費などのコストアップを販売価格に転嫁したくても、不景気だから上げられない。そうなると、いわゆる【コストリーダーシップ戦略】に振り切った新興企業さんに、利益創出力でかなわなくなるんじゃないか。

敵に【コストリーダーシップ戦略】をとられると、値下げ競争(というか、いまの時代だと「値上げしないガマンくらべ」ですかね)になったときに、高コストの御社は圧倒的に不利ですよね。

かと言って、このコストアップの時代に従業員さんに賃下げを要求することなんかできやしない。まして、コンプライアンスの時代に残業代払わないなどのブラックコストカットが通用するはずもない。

そもそも少子化で、すさまじい人材不足ですからね。ちょっとでも待遇悪いと、従業員さんに捨てられちゃいます。求人サイトの口コミもすごいですからね。

てことで、従業員さんのご厚意にどっぷりと依存してきた御社のような、「家族的雰囲気の会社」ほど、ほんとに大変です。

===

はい?御社のお客さまのような「厳しい消費者」さんたちは、そんな新興企業さん「なんか」相手にしない?

新興企業ごときが、「私たちは神様なのよ」と無理難題を押し付けてくるお客様に、耐えられるはずがないって?

どうですかね。これからはむしろ新興企業さんのほうが、手がかかるカスタマーを「相手にしない」ことで【コストリーダーシップ戦略】をさらに磨き上げる、とは思いませんか?

ヒトの自己犠牲に依存した御社たちが、自己犠牲に疲れたヒトに去られて、いままでのような分厚いお客様対応ができなくなる。するとお客様は、新興企業「なんか」からでも買わざるを得なくなるんじゃないでしょうか。

ただし、もしも新興企業がそういうカスタマーに「売ってあげてもいい」と考えるなら、ですが。そうです、お客のスコアリングが進むってことなんです。航空会社のマイレージサービスなんかそうですけど、「売る側」が自社にとって「優良」なお客をフィルタリングする。

手がかからなくてたくさん儲けさせてくださるお客をさらに優遇し、手がかかるとかクレームが多いお客様には売価を上げるとか。スタッフにハラスメントするようなら取引停止にするとか
、ですね。

===

最初のご質問に戻りましょうか。「わが社も来期はそうとう苦しいんだけど、それでもデジタル化投資は、先送ったら、ヤバいんかね?」でしたね。

繰り返しますが、残念ながら、今はもはやそこですらないです。「御社のビジネスがデジタル化できなかったから危機だ」というのではないんで、社長がそこに逃げてはダメですよ。

ゲームのルールが変わっちゃった感じなんです。それなのに、今までのルールに対応するためのデジタル化投資のことを悩んでますよね?だからもう先送りしてもしなくても一緒ですと申し上げてるんです。

御社のビジネスモデルは、デジタル化しようと思ったらできちゃうモデルです。あ、デジタル化というのは、社内の会議のペーパーレスのことではないですよ。

事業のデジタル化ってのは、「従業員さんがものすごく少なくなったとしてもオペレーションをまわせるようにすること」と、「お客様をスコアリングしてランク別に対応を変えること」の2点なんです。この2つとも、御社でもやろうと思ったらできましたよね?やらなかったけど。

前者は、いままでの「従業員さんの自己犠牲への依存と美化」をやめる覚悟が必要でした。御社が従業員さんを減らすということではないですよ、逆です。従業員さんが御社を捨てて去って行く、それでも大丈夫な状態にしておかないといけなかったということです。

そして後者ですけど、これも世の中が「お客様が神様なんじゃない、売り手と買い手は対等にビジネスしてるんだ」というふうに変わっているんで、御社の外では一気に常識になると思いますよ。

(大不況かつ人手不足だ、ってことが、だんだんとテレビのワイドショーでも報じられるようになっていくので、さすがに世の中もようやく、30年前からの人口動態の悪化に気がつくんじゃないかなと)

その両方とも準備万端な企業が、世の中が変わるのを待っていて、その日がついにきてしまった。それがコストアップxインフレ。

ゲームのルールが変わっちゃった感じです。なので「今までのルールに対応するためのデジタル化投資」には、もう意味がないんです。


TAC USCPA講座/草野龍太郎講師
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