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#516 自分の弱さにうち克とうと努力している人は、自分の強さを過信している(4)
ということで、このテーマを締めくくっていこう。ヒトは誰でも【性弱】であり、それは隠しきれるものではない。しかし組織人は【性弱】でないフリをしようとする。そのために組織にも個人にも多大なコストが強いられている。
これからただでさえ企業はいろんなコストが追加でかかる。サステナビリテイ開示などはその最たるものだ。であるから【性弱さ】の隠蔽ごときに組織ぐるみでコストをかけている余裕はない。
メンバーの【性弱さ】を前提とし、【強さ】を過信せず、ダークサイド転落を仕組みで予防する。個人がプライベートな理由で「お金が要る」などの動機を持ってしまうことは企業では防げない。だからこそ対象・機会そして正当性という残りの3条件がコンプしないよう、仕組みで守る。
これが結局一番安くつく。盗まれるのがお金ならまだしも、顧客の個人情報ファイルを持ち出され売り飛ばされたりしたら、目も当てられない。いわゆる「外部失敗コスト」の典型である。
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一方、【性弱】でないと偽装することで個人が被る大きなコストは「ココロの病気」である。
精神科のお医者さんたちの意見では、ココロの病気は急に発症するものではないそうだ。例えて言えば、何年もかけて一個また一個とオモリがココロの上に積み重なっていき、ある日ココロの荷重限界を超える。その時にココロは崩壊する。
最後はちっぽけな石ころが一つ乗っただけでクラッシュする。例えば「ちょっと叱られた」などだ。はたからは「なんでそんな程度で会社に来られなくなる?」と見えるが、最後の一石はあくまで引き金でしかない。ECOで学ぶ「マージナルコスト(限界費用)」である。
見るべきはマージナルな石ころではなく、その前にココロの上に積み重なったオモリの山だ。なぜこんなに蓄積したのか?その理由の一つが、所属組織において【性弱さ】を隠蔽しなければならなかったから、かも知れないのだ。
ココロの治療には、オモリの一つひとつを取り除いていくのだそうたが、【性弱さ】の隠蔽をやめない限り、取り除く側からどんどんオモリが追加される。これでは治療は全く進まない。
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自分の【性弱さ】を隠すことをやめる。【性弱】な自分がダークサイドに堕ちないために、つまり、対象や機会などの《条件》が揃わないように、周りに協力をお願いする。
もちろん他の人の【性弱】も認める。他の人も条件がコンプしないように守り合う。
そういうギブとテイクでいこう!と他人に言えれば、再びオモリを増やすリスクは減るかもしれない。
それが可能になるのはどういう環境だろうか?
草龍はこのことを長年考え、自分の組織や、コンサルティングするクライアントさんの組織であれこれ試してきた。その結果、一番いいのは
「どんなミスをしでかしても、30分以内に会社に報告すれば、決して責めないし、むしろ守る」
とメンバーに約束することであった。
この方式を宣言すると、中間管理職的な方々から必ずクレームがくる。「30分以内に報告さえすれば、何をやらかしても許すってよ〜」ってメンバーが甘えます、困ります、彼らは厳しくしどうしないと.....というものだ。
まさにこれこそが「【性弱さ】を隠蔽させる文化」の水源である。失敗に厳罰で臨めば、メンバーはかならず隠すようになる。ひとつ小さな失敗を隠せば、そのうち大きな犯罪を隠すようになる。
そして今日なによりたいせつなことは、人手不足だ。「30分以内に報告さえすれば何やらかしても許すってよ〜と甘える」という方々も、採用してお仕事をお願いしなければ回らないということだ。これから労働人口は激減してゆく。多くのメンバー数を必要とする組織だけの問題ではない。
さて、みなさんが率いている経理組織は今後どちらを選ぶだろうか?
メンバーの【性弱さ】を前提として、失敗を隠しさえなければ守られる組織か?
それとも、メンバー個々人の【強さ】に内部統制を丸投げし、ココロにオモリを乗せ続け、それをサバイバルした方が《えらく》なる組織か?
どちらの組織が、これからの熾烈な人材争奪戦を勝ち残れると思いますか。
TAC USCPA講座 / 草野龍太郎講師