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2022/11/10
成功し続ける方法/501回<無形資産メインのBSの時代>
#501 無形資産メインのBSの時代


今から20年ほど前までは、「モノを作るメーカー企業さんが工場を持っていない」と言う事は、まずあり得ませんでした。しかし今では、Appleさんの例を挙げるまでもなく、デザイン・設計するけれど、工場機能は持っていないと言うメーカーさんが珍しくなくなりました。

逆に、中国や台湾などでは、他の会社がデザインしたモノを組み立てることに徹している企業さんが大きな競争力を持っておられます。

日本には、その組み立てに用いられる重要な部品や、さらにその前段階の素材なので大きな貢献をしている企業さんがたくさんあります。サービスをゼロからグランドデザインして現実にすると言うのは日本企業にはなかなか難しいですが、「パーツ」の品質を高めると言うことにかけては、「サイロになればなるほど強い」日本の組織の良さが現れるところです。

このため、日本だとまだまだ「企業の資産と言えば、有形固定資産」と言う認識をお持ちの経営者さんが多いわけです。しかしグローバルサプライチェーンにおいては、製品やサービスのデザインやアイディアである知的財産=「無形資産(インタンジブルズ)」が、BSの大きなシェアを占めている企業さんも多くいらっしゃるわけですね。

また、インタンジブルズと言えば、何といっても「のれん」です。近年は巨額のM&Aが相次いだため、のれんの額も巨額になっています。ご存知の通り、日本会計基準以外のほとんどのGAAP(IFR Sや米国会計基準など)はのれんの定時償却を認めておりませんので、M&Aのたびに巨額ののれんがどんどん積み重なっていく企業グループさんも珍しくないわけです。

のれんに関しては、日本企業も円高のもとで、オペレーションを海外法人に移したり、グローバルM&Aをさかんに行ってきたりしましたので、完全な「自分事」ですね。

無形資産が資産の大きなシェアになると、企業に投資する側としては非常に難しい意思決定を迫られることになります。もちろん、有形固定資産の日々の収益獲得への貢献をバリエーションするのも決して楽ではありません。ただし今日の生産設備は高度に自動化などが進み、生産性も安定し、あるていどの「歩留まり」が読めるものです。

これが無形資産となってくると、評価の難しさは激増します。無形資産を生かすも殺すも、それは「従業員さんたちの働き次第」だからです。すばらしいビジネスモデルを実現させ化けさせるのも従業員さん。M&Aで、せっかく獲得したクライアントリストを失注につぐ失注で競合に奪われてしまうのも従業員さん。

と言うこともあり、無形資産メインの企業さんについては、そのパフォーマンスを予想したり、リスクやオポチュニティーを想定するためには、クラシックな財務諸表だけではちょっと足りない、と言う状況が常態化しています。従業員さんの優秀さやモチベーション、コミットメントや倫理について、有価証券報告書を見ても知ることができません。

従業員さんをめぐって、投資サイドが腰を抜かすような驚きの事件が後を絶たないのはこのためです。要するに、リスクに関する十分な情報開示がなされていないと言うことです。というか企業自体が社内状況を把握できていないのかもしれない。。。

ましてや、(日本を除く)世界のほとんどの国が強烈な金融引き締めに走り、(日本を含む)世界中が深刻な不景気に見舞われる恐れが強まる今日、企業と従業員の緊張感が増していくことが想定されます。日本においてすら、「早期退職」と言う形をとって、事実上の解雇が当たり前になりつつあります。

この状況に対して、「人的資本を大切にした経営」が叫ばれ始めたりしております。有形資産投資による生産性向上、無形資産による事業のトランスフォーム、そして人的資本?経営者の方々にとっては、いったい全体、何をどの順番でどうしたらいいのか、途方に暮れる状況かもしれません。

いずれにせよ、(BSで有形資産より無形資産が多いかどうかは別として)外部資本を調達してきる限りは、ディスクロージャーが足りない!と批判される可能性がありますね。これまでの財務諸表開示と「他社事例のコピペのような決算説明資料」だけでは、間に合わなくなりつつあるのではないか、ということです。


TAC USCPA講座/草野 龍太郎 講師
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