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#499 Non-GAAP開示の大波
「会計の資格」を目指しておられる方々には微妙な話かもしれません。いまどきの企業のディスクロージャー(開示)のトレンドは、いかに「非会計」情報をうまいこと提供するか、ということになっています。
GAAPはどんどん複雑怪奇になっている。受験上はそこまで求められませんからご安心ください、ただし試験に受かった後で本当の勉強(というか格闘)が待っています。
それに加えて企業も変容している。主たる資産が巨額のインタンジブル(無形資産)という企業も増えているし、提供するサービス内容とその売り方も手が込んできている。
そんなわけで、GAAP=「一般に」アクセプトされたアカウンティング原則というものを使っているだけでは足りなくなってきた。
企業はオポチュニティを投資家に訴求しきれないし、投資家は企業のダウンサイドリスクを見抜ききれない。
そこで、企業側からも投資家側からも、Non-GAAPの会計情報を提供したいです/してください、という流れとなり、こんにちのNon-GAAP開示のビッグウエイブとなったわけです。
(「EBITDA(支払利息と税金費用と減価償却を控除する前の利益)」というのがもっともシンプルなNon-GAAP数値の例です)
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そして企業も投資家も、それでも足りないと考えている。そして言うまでもなく、企業と関わるステークホルダーは投資家だけではない。いわば社会全体がステークホルダーとなった時代である。
環境を破壊している企業の製品は社会が認めない。社内で差別が横行する企業のサービスも社会が認めない。企業として「善いことを行い、悪いことをしない」というのは、決して道徳とか人道上の問題だけではなく、それが企業の業績、ひいては企業価値に直結する時代になったということです。
これが企業の「サステナビリティ」問題。
繰り返しますが、木を植えたり女性管理職を増やしたり産休を取りやすくしたりすることで「いい会社だ」と思われること、そこが目的なのではない。まして、「他社も植樹しているから、当社もやっとかないと」という低レベルは問題外。
「善いことを行い、悪いことをしない」。かっこうだけでなく、心の底からそういう努力をしている企業でなければ、会計上の利益を「サステイナブルに(持続的に)」上げ続けることができなくなっていく。
なぜなら、顧客から嫌悪されるだけでなく、優秀な人材からも逃げられ、ひいては資本も集まらなくなる(資本コストが増大する)からです。
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というわけで、企業開示は純粋な会計情報だけでは足りなくなった。GAAPベースだろうとNonGAAPだろうと、それが「帳簿上の会計情報」である以上、企業の過去の経営成績と財政状態を伝えること「しか」できないからです。
どんどん比重が高まっているのが「非・ファイナンシャル情報」。これにより、企業は「善いことをしようとし、悪いことをしないようにしている」かどうかを開示し、ステークホルダーもそれを注視するわけです。
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IFRSを設定しているIASBは、「IFRS(やUSGAAPや日本会計基準など)で開示される会計情報だけでは足りない」との自覚から、SASB=サステナビリティ情報開示基準の設定団体を設立。IIRC(統合報告のガイドライン設定団体)などと協同して、世界の企業の「非会計財務情報」の開示もしきっていこうとしています。
こういう話がまたまた「欧米発のキレイゴト」で終わるのか?それとも、IASBなどの考える通り、21世紀中盤の社会的価値観の中心になるのか。
世界的に「非・民主主義」の国の勢い(暴れぶり?)が日に日にエスカレートしているようにみえる今日、たしかに「サステナビリティ」がいっときのあだ花に終わるおそれもないとはいえません。
とはいえ、、、政治がどうなろうと、クラシックな「資本主義」の退潮は、これはおそらく間違いのないところ。したがって「会計情報」も、1930年代の原始的GAAPに戻ることはありえないと草龍は思います。そして、「会計情報」のプロ(を目指している)みなさんとともに、「非会計・サステイナブル情報」の基準についても、学んでいきたいと考えています。
TAC USCPA講座/草野龍太郎 講師