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#497 経理部門の業務時間短縮(時短)戦略(9)
およそ2ヶ月にわたって、経理部門の≪時短≫戦略を、「あなたがその責任者だとしたら」という視点で考えてきました。
メルマガの限られた字数のため、どうしても具体性が欠けがちでしたが、それでも無責任な「あとは、みなさんのやる気次第です!」という丸投げは避けてきたつもりです。
実際、わたしはこれまで数十社の≪時短≫プロジェクトを指揮してきました。対象は経理部門に限りません。共通していたことは「組織のメンバーの方々(あなたの部下の方々)への丸投げは、絶対に許さない」ということ。
わたしは経営者や組織幹部の≪鬼コーチ≫です。偉いあなたが、部下さんに嫌われたくないからと尻込みするのを叱咤激励する役割です。
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前回も書いた通り、最も速く部下さんたちから「見透かされて」面従腹背状態に陥りたければ、カンタンです。あなたはできるだけ卑怯に「丸投げ」してみせればよい。
たとえば、
・守る気がない美辞麗句を発信する。
「責任はすべて私がとるから、失敗をおそれずに実行してください」など。
・部下さんが実際に≪時短≫施策を実践すると、必ず他部署から苦情を言われることになるが、そのときにあっさりと逃げる。
「いやあ、他部署に迷惑かけるとこまでプロセスを省け、などとは指示してないんですけどね。確認してみます。ごめんなさいね」など。
・そのほかトラブルが起きるたびに「3そ」で塩対応に徹する。
「それは現場の知恵で処理してください」
「そんなことをいちいち報告しないでください」
「そのくらい皆さんで処理できないのですか(バリエーションは「きみはそれでも課長なの?」)
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そもそも、あなたが幹部を務める企業の従業員のみなさんは、「安定を求めたからこそ、この会社に就社した」という方が大部分かもしれません。
ですから、突然、変わらなければいけない!などと偉い方々(あなたもその一人)から言われても困るわけです。そういうことを定年まで、いや、定年後も、決して言われることがないと信じてこの会社に毎日まいにち通ってきた。
経営幹部の危機感を共有してほしいと言われても、そうはいきません。同じ気持ちになれというなら、じゃあ幹部と同じ給料払ってくださいよとなるのが、関の山。
しかし、部下のみなさんが今のままでは、本当にまずい。競合他社にやられる前に、顧客にたいして価値を提供できずオウンゴールを重ねることになる。
人材市場でも、そんな御社の状況はSNSなどを通じてひろく知れわたっている。もともと労働人口が激減しているなかで、御社を志望する学生も転職者もほとんどいない。あなたが率いる経理チームにいたっては、補充など夢のまた夢。しかも外注コストをケチることでも悪名高いため、業務委託先も人材派遣会社もよりつかない。
それなのに、あなたの部下さんたちには、あたりまえのように「危機感のかけらもない」。
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あなたご自身も、そこから逃げようにも、「あの会社の幹部だったの?」ということで市場価値は低い。残るにせよ去るにせよ、状況を好転させたという実績を残すしかないのではありませんか?
逆に言えば、この状況を好転させたという実績ができれば、自信にもなるし市場価値もアップする。
ですから、逃げずに取り組みましょう。その取り組みの第一歩こそ≪時短≫なのです。
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なぜ≪時短≫か?それは、なんといっても「測定が容易」だからです。勤務時間をまいにち測定して記録するのは、もともと法律上の義務ですよね。ですから「総計2,000時間から1,800時間に減った」みたいに測定するのが容易なのです。
「測れないものは改善できない」。カイゼンの父と言われるデミング博士の至言です。測ることができるなら、そこにはカイゼンの可能性がある。
数字(時間数や分数)でしか表されないのも、公平です。結果の評価に「好き嫌い」「年次」「派閥」などが入りにくくなります。
しかし、繰り返しますが部下の皆さんに「丸投げ」は禁物です。
さきほど3つほど、ダメな丸投げの例を挙げましたが、それでは最悪な丸投げをご披露しましょう。それは
・みなさんの日常業務を点検して、その中の「ムダ」を、一覧にしてください!
これはダメですね。要は部下のみなさんに「原因はあなたたちにある」と突きつけているわけですから。もともと「数十年間、ハラハラせずに穏やかに生きていくために」御社に集まったという方々ですよ。そこに向かって「ムダがあるだろう、ムダが!」などと言ったら、そりゃあ固くカラを閉じられておわりですよ。
変えなければならない方々のことこそ、決して現状を否定してはいけないのです。だから、「あなたは、まず、謝るところから始めなさい」と申し上げたのです。これまでの不作為を詫びる。悪いのは会社、ムダをおしつけてきたのは会社、そして、一体どんなムダをおしつけているのかも把握できていない自分がいちばん悪い、申しわけない!と謝る。
そこから始めなければ、部下さんたちは抵抗すらしてくれませんよとも書きました。だいぶ意味がわかってきてくださったでしょうか?
そうです、ここまで書いてきたことは、別に《時短》に限った話ではないのです。あなたが、経理部署をひきいるにあたって、いつなんどきでも実践しなければいけないことなんです。
(もう一回つづく)
TAC USCPA講座 / 草野龍太郎 講師