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#488:「好きなこと」で生きていけるか問題
10年ほど前、「YouTuber」という生き方(稼ぎ方)があることが広く知れ渡った。
YouTubeに投稿した自作の動画が大量に再生されると、Googleさんから広告収入やサブスク収入の一部を支払ってもらえるというのだ。
Googleさんは「YouTuber」を日本でも増やそうとしてキャンペーンを行った。「好きなことで、生きていく」、この名コピーに惹かれた多くの方々が本業・副業を問わずYouTuberになった。
いまでもYouTuberは、幼児や学童には人気の職業だ。
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さて、世の中には「好きなことを仕事にしてはいけない」と仰る方々がいる。
その理由は、「仕事」には「イヤなこと」「辛いこと」が山のように起きるからであると。
好きなことを仕事にしてしまうと、次々と起きる「イヤなこと」「辛いこと」のせいで、好きなことがキライになってしまう。それは避けるべきだというのだ。
なるほど、それも一理あると申し上げた上で、草龍は、やはりそれは違うと思っている。
確かに、仕事に「イヤなこと」「辛いこと」が山のように起きるのは間違いない。
である以上、どうせイヤな目に遭うのなら、「好きなことで稼がせてもらってるのだから、仕方ない」と思える方が気が楽ではないだろうか。
何かを「仕事」にするためには、いずれにしても、そのための膨大な訓練を淡々と積み重ねなければならない。
それが「好きなこと」なら、その過酷な日々に耐えられるかもしれない。というか、過酷な日々だと自覚しないかもしれない。
ということで、「好きなこと」を仕事にできるほうが圧倒的によい、と草龍は思っている。
もっとはっきり申し上げると、「好きなことを仕事にしたら、それをキライになってしまうリスクがある」なんてことを気に病む前に、心配すべきことがあるんじゃないだろうか?
それは、自分のすることが他人様に価値を認めていただけるのか?フィーを払っていただけるのか?ということだ。
その心配のほうが、仕事が好きか嫌いかなんて自分の都合より、ずっと優先度が高いだろう。
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ともあれ、「キライなこと」であろうとなんだろうと、何かを「仕事」にするならそのことに対して強い覚悟を決めて、かなりの長期間にわたって真剣に取り組まなければならない。
プロ野球のビッグボス・新庄監督もこう仰っている。
「やりたくないことをストイックに積み重ねて、ようやく『あいつなら自由にやってても仕方ない』というポジションをつかむ。
すると、やりたいことができるようになる。その状態に達するには、何事も数年かかるね」
これは、経理・財務・税務を「仕事」にしている皆さんなら、頷いてくださることだと思う。
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YouTuber(や、最近ではTikToker)の話に戻ろう。これは「好きになれる仕事」かもしれないが、だからといってラクな仕事ではない。
クリエイターたちはグローバルプラットフォームのもとで働いているようなものである。
もちろん、クリエイターたちが団結してプラットフォーム側に待遇改善を求める、なんてこともありえない。
プラットフォームの中には日本に登記すらしていない会社もあるほどで、日本の法律なんか遵守する気がないのではと疑ってしまうほどだ。
さらに、クリエイター間の競争は極めて激烈であり、視聴数を稼ぐために次々と新奇な企画をひねり出し、編集やサムネイルにも手間暇をかけないといけない。
しっかり収益を出せているYouTubeチャンネルは、ほんの僅かだと言われる。
これは、現在の日本企業や日本人の現在と近未来の象徴のような気がする。
海外プラットフォームに使用料をお納めしないと「仕事」ができない。しかもその使用料は、円安とインフレでぐんぐん高騰している。
数十年前に日本が一瞬リッチになってから、「いまの仕事はなんだか好きじゃないな〜」などと、いつまでも<<自分探し>>をする人が増えた(みんなそうだとは言わない)。
しかし、その「余裕」が、これからの日本にも許されるかどうかは、ちょっと怪しい。
TAC USCPA講座/草野龍太郎 講師