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「聞けるけれども、聞かない」状態の方々。
たとえば、下記のBくんのような方々です。
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Aくん「僕は26歳ですが、周りで結婚してる人は全員、学生時代に異性の友達がいた人です」
Bくん「え?あなたの周りの既婚者は全員、学生時代に付き合っていた相手と結婚しているってこと?」
あるいは、、、
「AI技術は四則演算と確率・統計的手法を用いて情報処理しているだけです。だからAIが言葉の意味を理解することはありません」
と聞いて、「AI技術とは、言葉の意味の理解のことですか?」と言うような方々のことです。
皆さんも職場などで、ちゃんと僕の話を聞いてくださいよ。。。と言いたくなること、ありませんか?
そう言う方々に指示をして、念のため復唱していただくと、ほぼ100%の確率で「トンチンカンなことを言う」のですよね。しかも、本人はトンチンカンなつもりはない。
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ベストセラー『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子さん)で紹介された例を見てみましょう。
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「Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある」
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
「Alexandraの愛称は( )である。」
@Alex
AAlexander
B男性
C女性
↓
正解は一目瞭然ですが、中学生の正答率はわずか38%、しかも中学1年生に限ると23%だそうでランダム3択より低い。
これは「でたらめに選んでいるのではなく、考えた上で正しそうなものを選択している」ことを意味しています。
そして、それが間違っているのです。多くの中学生が「考えた上で」Cを選んでしまう。
なぜか?
それは「愛称」という未知の言葉を無視してしまうからだ、と新井紀子氏は考察しています。
謎の言葉「アイショー」を飛ばして「Alexandraは( )である」という文ならば「女性」でいいんじやない?と「考えている」ということです。
その際、質問に対する答えにはなっていない、なんてことはどうでも良い。
つまり、「読解能力の低い方」「話を聞いてるようで聞いてない方々」というのは、
@意味のわからない単語を自動的に無視してしまう。
Aちょっと待って、「アイショーって、なんですか?」と確認する方々は少なく、殆どの方々は「ふむふむ」とうなずきながら、「飛ばせばいいや」と自動的に無視する。
Bそうやって「自分の認識できない情報」は捨てて、「認識できた情報」だけで、「相手が話していたこと」を勝手に再現する。
C再現できたものが、相手の要求する答えであるかどうかは関係ない。
「聞いてるようで聞いていない」方々は、こういう流れで、「自分なりにちゃんと聞いて、ちゃんと考えて」いるのです。
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皆さんが職場で役員さんに熱弁をふるって、
「当社の役員も従業員も、ITリテラシーが高くないので、ERPを導入したものの使いこなせていない。これでは管理会計はいつまでもできない。
だからまずは入り口として、Excelのアウトプットを読みこなせるように、研修に力を入れたい」
と提案したとします。
すると役員さんたちからこんな質問が来る。
「当社には管理会計は要らんというのかね?」
いや、全然そうではなくて、必要だからこそできるようになるために研修しましょうと申し上げているのですが。。。
こういう役員会、皆さんたまに体験しませんか?
こちらの話をちゃんと聞いてくださいよ!とは、役員さんには言えないですもんね。
彼らが「なぜ話をちゃんと聞けないのか」?それは自分の認識できたパーツだけ切り取って、話を勝手に再構成しているのです。
「ITリテラシー」「ERP」「Excel」の各パーツは認識しない。
「当社は...............管理会計はできない...............研修を」だけを選択して聞いて、「こいつはいったい何を言いたいのか?」をご自分なりに想像して再構成してくださっている。
「ははあ、管理会計なんて要らない、と言っておるのだな」。そう勝手に思ってしまって、あなたを怒鳴りつけたりする。
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「人の話を聞いてるようで聞いていない人」の問題は、「頭が悪い」とか「誠意が足りない」「態度が悪い」のではないということです。
それは「語彙の問題」なのです。
「正確に人の話を聞く」ためには、めちゃくちゃ語彙が多くないといけない。でないと、知らない単語についての話は脳が自動的に無視してしまうからです。
皆さんは「人の話が聞ける人」だと思うので、「わからなかったら『いまの語彙がわかりません』と聞けばいいじゃん?」と思いますよね?
でもそれは、皆さんが語彙をたくさん知っているから。皆さんと違って「知らない語彙が多すぎる人」にとっては、一つ一つ聞くわけにいかないのです。
だから、子供の時からこうやってサバイバルしてきたわけです。
「わからない語彙は聞き飛ばしながら、わかっているフリだけしておいて、わかった語彙だけを元に相手の話を自分なりに復元する。
で『わかりましたか?』と聞かれたら『はい!』と答えておけば、相手は安心する」
そういう方々が一念発起して勉強しようなさると、なかなか厳しいのですよね。
「授業中はメモをとってください」と申し上げても、子供の時から「初めて聞いた言葉は全て無視する」と言う習慣が身に付いているから、知っている言葉しかメモできない。
これは、知らないことをインプットするには、大変な不利です。
なので、どうやって勉強したらいいか判りません、と言う方は、まずは、「不明な部分は決して聞き返さず、わかったフリだけしておく」と言う悪習をやめるところからスタートすることだと思います。
新井紀子氏は、「いくつになっても、読解能力は伸びる」と言っています。それはそうだと思います。だって語彙を増やせばよいのですから。
そのためには、まずは、ご自分が「人の話を正確に聞くことができない」ことを自覚していただき、「知らない語彙を無視せずに調べる、尋ねる」という習慣を身につけ直すといいですね。
TAC USCPA講座 草野龍太郎講師