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2022/06/02
成功し続ける方法/480回<IFRS「のれん」償却を検討!>
#480 : IFRS「のれん」償却を検討!


5月27日の日本経済新聞さんの記事を読まれた方も多いと思います。

IFRS(国際会計報告基準)の設定団体IASBのバーコウ議長へのインタビューです。

このコラムの読者の皆さんには言うまでもありませんが、M&A時ののれん償却について、日本の会計基準は異彩を放っています。

日本ではのれんを最長20年にわたって定期償却し、価値を少しずつ減耗させて毎期の費用とします。

日本基準以外、というと言い過ぎかもですが、USGAAPやIFRSなど世界の多くの会計基準ではのれんの定期償却はしない。「こりゃアカン」となったときにまとめて減損します。

年に1回はテストせよということになっていますが、M&Aした事業や企業の業績などに問題なければ償却しないわけです。

このルールに後押しされて、グローバル巨大M&Aが続々と行われている。つまり巨額ののれんが世界中で積み上がってしまっているわけです。

膨れ上がった風船。破裂し出したら大変なことになる。

というわけで、USでも「のれんは定期償却しといたほうがいいんじゃない?」という議論が湧き上がるようになった。

日経さんのインタビューで、バーコウ議長は、「自分は以前から、のれん定期償却(日本式)に前向きだった」と明言しています。

IASBは今年の秋にも、「日本式」への方針転換するかどうかを決めるそうです。

・・・・・・

20年ほど前、ロンドンを中心にIFRSが作られていくころは、EUとユーロが、日の出の勢いでした。

USではITバブルが弾け、エンロン・ワールドコムなど大型粉飾事件が続発したこともあり、「アメリカの会計や監査は地に堕ちた」「これからは会計もEU主導の時代」という空気になりました。

それまで「一強」だったUSGAAPは 、IFRSへの歩み寄り(コンバージェンス)を余儀なくされました。

また中国は、USとの緊張・EUとの蜜月を続け、会計基準もIFRSの影響を強く受けています。

・・・という約20年間ですが、日本がIFRSのルールメイキングに積極的に参加してきたとはいえませんでした。

(ちなみに日本のIFRS財団への拠出額シェアは、中国よりちょっと多くて、13%だそうです。)

日本では「えらい人はルールを守らなくてよい」と考える方が多いですね。法治国家ではありますが、法の支配というより役人の方々の裁量権が大きかったりする。

それに対して海外には、「えらい人もルールに従わなければならない(法の支配)。だからこそ、ルールを変えられる人がえらい人」という考え方の国や地域があります。

(イングランドのマグナカルタは、法の支配の象徴ですね。)

そういう国は、ルール作りに積極的に参加するとか、時代にあわせてルールを柔軟に変えていこうとする。国のルールの頂点である憲法もどんどん改訂する。

日本の発想は、ルールは変えずに「例外」をいかに作っていくか。それができるのが優秀な人と呼ばれたりします。

なので、大宝律令の昔から、憲法の改訂は殆どされたことがない。ただ、いまの日本国憲法は例外中の例外で、明治の大日本帝国憲法を全面改訂したものですけどね。

・・・・・・

IFRS財団は、国際「会計報告」基準IFRSに加えて、もう一つ、どでかいルールをメイクしようとしています。

これが「サステナビリティ報告基準」。そうです、企業がSDGs活動を統合報告などでレポートするための基準です。

炭素をどれだけ排出したか、ダイバーシティとインクルージョンはどうか、などなどの「成績」を、企業に「粉飾」させないようにする。これまた大きな試み。

企業のSDGs活動のためのESGファイナンスも巨額になってきています。

なのに調達する側の企業が「我が社は、いいことを、たくさん、一生懸命にがんばってます!」「地球の笑顔が見たいですから!!」などとポエムだけを発信されても困る。ファイナンスの意思決定ができない。

てことで、サステナビリティ報告基準作りがどんどん進んでいます。

11月にエジプトでCOPがありますから、IFRS財団はそこでどかーんと花火を打ち上げて、USに先んじようとするかもしれません。

日本会計の権威の方々には、今度こそは、ルールメイキングに積極的に参加し、爪痕を残していただきたいものですね!期待しましょう。


TAC USCPA講座/草野竜太郎 講師
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