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この数週間、円が売られた。対ドルでいうと、「アメリカが金利を上げるだろう」と誰もが思っている中で、
日本銀行は「利上げしない」と宣言しているのだから、<<ドル高・円安>>になるのは当然である。
ただし、現在のアメリカのインフレはすさまじい(だからこそ「利上げする」と思われているわけだ)。
インフレは、一般には「物価の上昇」であるが、玄人目には「通貨(の購買力)の下落」である。
つまり、アメリカ国内ではドルが弱まっている。これは<<ドル安>>の要因になるはずだ。
ということで短期的には、対ドルの円安は多少は是正されるかもしれない。
(ここまではBECの勉強された方にはカンタンですね)
しかし中期的にはどうだろうか。もう少し<<円安・ドル高>>が進むのではないだろうか。
近年の日本は、慢性的に「内需」が足りない。みんな「安く!安く!もっと安くできるでしょ!」とお互いを毀損しあい、お金を使わない。
なので国としては「外需」つまり輸出がないと生きていけない。
そこへ資源価格の高騰が襲いかかってきた。輸入金額の増加で、経常収支は大赤字になっている。
これを解決するために、
「さらに<<円安>>になってもらえばよい、それは<<よい円安>>だ!」
と主張する方々もおられる。言うまでもなく、円安になると輸出は増える「はず」だというのだ。
では1ドル=150円や200円の円安になったら、輸出がほんとうに増えるのだろうか?
輸出するためには生産しないといけない。この数十年、主にアジアに出してきた生産拠点を、日本に戻さなければいけない。
これは、カンタンなことではないのだ。
たしかに<<円安>>になれば人件費は国際比較で安くなるかもしれない。しかしそのメリット以上に、日本国内で日本人を雇用するデメリットが大きかったらどうだろう?
アジアに出て行くと、そこには規制が少なく、成長する巨大市場がある。企業はわざわざ日本に戻ってアジアに輸出する意味がない。
この40年間、日本企業は、アジアの生産拠点では優秀な人材を集め、生産効率向上を追求してきた。
特に2009年からの円高を境に、国内の最先端の技術者のアジアへの配置転換が加速した。
その反面、国内工場の平均稼働期間は延びた。特に地方の中小企業は税制や補助金でガッツリ保護されている。
そしてもちろん日本名物の「人類史上最強の解雇規制」も健在だ。更には、一部の国民の強い意志により火力発電比率が高く、輸出時には大きな「炭素税」をかけられる恐れもある。
この国で(再び)生産を増やそうと言う企業が、一体どのくらいあるだろうか。
そうそう、忘れちゃいけない。会計上・税務上の問題もある。
輸出大国ニッポンだった20世紀と異なり、現在では「単体」の利益には意味がない。海外拠点との「連結」決算で評価される。
生産・販売拠点が外国にあれば、<<円安>>のおかげで「連結」「円建て」の利益は増えるわけだ。
(あくまで日本株式市場での話だが)
その上、法人税が10%の国から、それより高い日本に帰ってくると、..... もう言うまでもないね。
ということで、<<円安・(ドル高)>>が進んでも、我々が輸出大国に戻ることは難しい気がします。
単に色んなモノやサービスの値段が上がるデメリットだけなんじゃないか。
すでに我々が使うインターネットサービスは多くが海外に依存している。そのサブスク料金も年々上がりそうだ。
そしてもちろん、海外の資格試験にかかるフィーも同様だ。
<<円安>>がこれ以上進む前に!やるべきことを全力でやり抜きましょう。そのためにも、実り多い連休を!!
TAC USCPA講座 草野龍太郎 講師