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451 経理パーソンが「変化を拒否して逃げ切る」ことの末路
日本が高度経済成長した時代が20世紀の後半にありました。若い皆さんはご存知ないですよね。
上下水道や電気や舗装された道路が津々浦々まで行き渡ったのは、このときの投資のおかげです。
借金なんかいくらでも返せる、だって日本経済はどんどん成長するんだから!と皆強気にお金を使いました。
これに対して直近の30年間は、強気にお金を使うような方は組織で<<えらく>>なれなくなり、公共事業はなんとなく悪者扱いされるように。
「次世代に借金を残さないようにしよう」の掛け声のもと、老朽化して破裂する水道管や、崩落する橋やトンネルなどを、次世代に残すことになってしまいました。
これは、みんなで選んだ<<清貧至上主義>>の結果ですから、仕方ありません。
高度成長期の話に戻りますと、「決められた物事をきちんとこなすこと」が正解とされていました。
当時日本が世界ナンバーワンを誇った製造業では、かっちり固まった業務プロセスをこなすことが合理的でした。
その後の最近30年は、インターネットなどのグローバル&デジタル技術の普及が目覚まし過ぎた。高い付加価値(利益)を出せる産業が、製造業からサービス業に変わりました。
日本は製造業を周辺国に移し、その代わりに多くの人がサービス業に従事するようになったのですが、相変わらず製造業のノリでやってしまった。
というか、製造業のダメなところだけ受け継いでしまった。
「言われたことだけやっていればよい」
「余計なことを言い出すと損する」
「上から『変革しろ』と言われても、『はいはい』と言っておけば、そのうち上は忘れる」
そうやって皆で手に手を取って変化を拒み、時々変化しようと張り切る人がいると、皆で抑え込む。
そうこうしてる間に、会社の外、というか日本の外では様子が大きく変わってきていたが、そんなの関係な〜い。
特に我々経理パーソンは、どのくらい「変化しないで逃げ切るか」が重要ですよね!周りでは「曖昧なことがら」や「未知の事象」が増えていますが、それらを「は?意味わかりません」と拒否しましょう。
経理パーソンたるもの、起きてはならないことは、仮に起きてしまっても、起きなかったことにする(見なかったことにする)という精神力が必須です。
いま、経理パーソンにどのような人材が求められるのか。
1.デジタルを拒否する人
デジタルを活用する意味は、社内データを大量・即時に収集して分析し、異常事態(課題)をいち早く発見するためです。
このことがわかってデジタル投資をしている企業は日本にはあまり多くなく、「オンライン会議」「ペーパーレス」「ハンコレス」がデジタル化だ、と思っている方々が殆どです。
デジタルを本当に活用すると、会社の「異常」がどんどん可視化されてしまいます。その異常が良くないことであればすぐに修正するし、
とても良い異常であればそれを異常から通常に変える、と言う手を打つことができる。これがデジタル(データ)により仕事をする意味です。
特に、我々経理チームが社内のデジタルデータを俯瞰して「異常」をみるようになると、大変迅速な行動力の元となります。
つまり、会社に(なんなら皆さん自身に)余計な業務が増えると言うことです。
ですから、デジタル導入を推進・支持するような人は、チームに入れてはいけません。
2.組織の景色を変えない人
固定化された組織や体制を維持すれば、変革をもたらす新たな発想も生まれにくいままになります。
逆にイノベーションやトランスフォーメーションが起きやすくするには、まずは組織の景色を固定化させないことだと言われています。
逆にいえば、組織の景色をガッチリ固定化すれば、変革を志すようなメンバーの意欲も減らせるわけです。
これまでのやり方や考え方、組織の枠組みやルールを疑うようではダメです。組織外の人と繋がるとか、これまでとは違った環境に飛び込むなども感心しません。
大企業の経理パーソンが、出資先や取引先のベンチャーや中小企業に出向することがあります。
しかし、ヘタにスピード感を持ってビジネスを生み出す経験をしてしまうと、戻ってからわれわれ経理チームのゆったりとしたリズムを乱すもとになりますから、勘違いさせないようにしないといけません。
3.多様性を受け入れない人
自分とは異なる特性を持つ人の考え方・特性・異なる能力を認め、その人たちの勝ちパターンを学んで受け入れる力が、新しいビジネスモデルをつくる原動力になります。
そんなことをされたら経理的には迷惑以外の何者でもないですよね?ですから、従来のルールや既存の論理をしっかりと押しつけて、考え方の多様性を潰していきましょう。
4.自ら問いを立てたり答えを探したりしない人
「正解」を暗記してそのマニュアル通りに行動しても付加価値が出せない。それではいかんということで、自ら問いを立て、議論を通じて自分たちなりの最適解を模索する力が求められる組織もあります。
しかし我々の組織は、付加価値など要らない<<清貧至上主義>>です。コストカットさえできればよいので、「自分のアタマで考える」などの行動は余計ですし、
まして「自ら質問を新たに立てる」なんて、ちょっとなに言ってるか全くわからないほどムダです。
言われたこと、決まったことにだけ「返事はハイかYES」という態度が望まれます。
「変化したがる人」には、どう対処するか?
組織の中には、変化したがる「意識が高い」方々もいるでしょう。困ったものですが、仕方ありません。
基本スタンスは、
1.「ハイハイ、すばらしいですね、いいですね、ぜひやりましょう」しかし何もやらない
2.ガッツリ反論する
の2つです。相手もいろいろと「デジタル化を進めるには研修」を受けたり、本を読んだりしていますので、こちらもう少し工夫が要ります。
1は、<<面従腹背(めんじゅうふくはい)>>作戦です。「変革したい人」が、上位の人をかついできたりしたときに、2の《反論》では玉砕してしまいます。
ですから聞いてるフリはしましょう。でも、担がれた<<えらい人>も、別に本気で自分の任期中に会社を変えたいとは思っていません。
波風立てずに逃げ切りたいだけのはずです。だから、<<面従腹背>>してさえいれば、我々経理チームは何も変革せずにすみます。
2に対しては、「DX導入マニュアル本」などで、
「抵抗勢力を打ち負かすのではなく受け入れましょう。『こういう理由や背景、思いがあって』と粘り強く交渉しましょう」などと書かれています。
「1カ月だけでいいので、新しいやり方を試してみましょう。効果がなかったら元に戻しますから」というように、期間を区切った提案をしてくることもあるでしょう。
この場合、約束の1ヶ月が経つと、多少便利になったとか、人手が要らなくなったとか、間違いが減ったとか、そういうことを針小棒大(しんしょうぼうだい)に取り上げて、
「ほら!効果があったではないですか!!」
とアピールしてきたりします。たしかに、デジタルツールを使って見たら意外に便利で、仕事が楽になることがありますから、部分的に導入を認めてもいいかもしれません。
しかしあくまで部分的にです。仕事のやり方の大きなコンセプトまで譲歩してはなりません。
改革派はよく、流行の「飛び道具」を愛用します。「飛び道具」はたいていカタカナかアルファベット数文字で、「意識高い系」のビジネス本やネット記事、セミナーやサロンなどで仕入れた付け焼き刃であることがバレバレです。
過去30年間の停滞の間、日本にはさまざまな「飛び道具」が現れては消えていきました。昨年からは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が大流行飛び道具となっています。
その場その場の流行にとびついて、「今、これをやらないと、滅びる!」と、いつも恐竜を例えに出す。
我々経理パーソンは、そんな浮ついたムーブメントに左右されるわけにはいきません。
これからも「飛び道具」に惑わされることなく、しっかりと変化を拒んで、逃げ切りを図っていきましょう。
50年前の高度成長の遺産である、今の快適さ・安全さを享受して、逃げ切れればそれでいいじゃないですか?
===
え?
また近所の水道管が破裂?
変電所が火事?
でもそれを根本から修理するお金がない???
ラ・ニーニャ現象が始まって、この冬はめちゃくちゃ寒い?
でも石油や天然ガスが高騰して、それを買うお金がない???
日本だけが<<清貧>><<停滞>>に甘んじて、諸外国に遅れを取ってる?
つまり、逃げ切るなんてすでに無理で、我々はとっくに超・ビンボーになっている???
し、し、知りませんよ、そんなこと!
TAC USCPA講座/草野龍太郎 講師