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#429 業務改善は甘くない
先週は、新年度を「身辺整理」から始めましょうとお勧めしました。
これは、このコラムの読者の皆さんに対してだから申し上げられること。どなたに対してもおすすめすることはできません。「整理」というのは、極めて高度な知的活動なんです。
そもそもヒトの脳は、ヒトが摂取したエネルギーの2〜3割を使っています。ですので、それ以上脳がエネルギーを余計に使おうとすると、カラダはこれ以上「分け前」を減らされないように抵抗します。
これが「めんどくさい」「やりたくない」「だるい」という拒否反応の正体です。
その点「整理」というのは、脳がめちゃくちゃエネルギーを使う活動です。
現状を把握して、あるべき状態を想像し、そこに向かっていく動作を段取り、その通りに身体を動かす。障害があれば段取り直す、もしくはあるべき状態を考え直す。
・・・これは大変。カラダとしては、なんとしてもこんな暴挙を止めたい。だから全身で「整理?やりたくない!」「今じゃなくていいよね〜」と先送ろうとする。
それを乗り越えて「整理」をやり遂げられるというのは、実は、スポーツで高いパフォーマンスを発揮するのと似ているのです。
どなたにでもできることではなく、「努力」しても「報われない」ことも多い。
そこを分からずに、「整理」なんて「片手間」で済むと思っている方がとても多いですね。
「片手間」でゴルフ70代で回れますか?マラソン3時間切れますか?小松美羽さんのような絵を描けますか?
「整理」というのは、そのくらい高度なアクテビティなんだ、と再認識した方がよいです。
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さて・・・今年度は、事業そのもののデジタルシフトと「雇われ方改革」を進めようと「改革を予算化」した企業さんもあると思います。
しかし、日本企業独特の文化に起因する業務改革の難しさを分かっていないと、多分、年度内にも挫折します。
そう、企業でも、「整理」を甘く見てはいけない。凡人が片手間にできることではないのです。
カラダと脳の関係と似ていますが、現場部署の「変わることへの抵抗感」は凄まじいです。
皆さんも、経営サイドにおられれば「現場に手を焼く」かもしれませんが、ひとたび現場のリーダーになれば「経営の言う事なんか聞かん!」「脳になぞエネルギーを渡さんぞ!!」となる。
現場が抵抗するのはサボりたいからではなく、しっかりやり続けたいからなんですよね。
つまり、業務効率化には現状のプロセスを変更する必要がありますが、その変更の結果、業務が回らなくなり迷惑をかけてしまうのを恐れる。
「余計なリスクをとらず、今のままきっちりやっていこう」という慣性の法則が働くわけです。
この「きっちりやるために変えたくない」のは、日本組織の良さでもある。サボタージュへの対応と異なり、一筋縄ではいきません。
「変えたらきっちりできない」と現場が恐れるのは、「イレギュラー業務」がの多いことも影響しています。
皆さんの経理部門の経費処理でも、締め日や証票には規定があるのに、部署別や個人別に様々な「特殊なルール」が出てきます。「ルールは破るためにある」と豪語する方も後を絶ちません。
なぜそうなったのか?「ルールを盾にとる」のを良しとせず、「要望に対して臨機応変に対応」、それが日本ムラビトの生きる道だからですね。
「人材流動性」が低く、担当者が変更しても前任者は先輩であることが多い。「これ、ムダだからやめましょう」とは言えない。
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アメリカや中国など、USCPA資格受験者が多いエリアでは、「整理」が凄まじいレベルで進んでいます。そのための手段がデジタル化です。
それにともない、BECでは「RPA」「AI」など、業務効率化のデジタル手段の基礎知識も試験範囲となりました。
皆さんも、「DX」などの名の下に、デジタル化による業務効率化プロジェクトをリードする担当に抜擢されているかもしれませんね。
企業文化によっては、「カラダ」が全力で「変わる」ことに拒否反応を示すことがあるでしょう。そのときは、まず、上記の「カラダの思い」を思い出してみてください。
そして!ご自分自身が、「身辺整理」しようと思ったらどのくらい大変であるか、そのことも考え合わせてみてください。
「整理」は、凡人が片手間にできることではありません。
TAC USCPA講座/草野龍太郎講師