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#416 褒められたときこそ
知日派で知られるハーバード名誉教授のエズラ・ボーゲルさんが亡くなりました。ボーゲルさんの1979年に発表した著書『Japan as No. 1』は、世界が日本を見る目を変えたと言われます。
同書は、戦後日本の高度経済成長のヒミツが、日本人の学習意欲の高さや《日本式経営》などにあると説明。もちろんボーゲルさんは学術的に事実を分析しているだけでしたが、これを読んだ80年代の日本のビジネスパーソンは、のぼせ上がってしまいました。
《褒められて喜んでいた》のです。
実際、株式の時価評価でも、90年代初頭のバブル崩壊直前、日本企業たちは圧倒的に世界No. 1でした。だから80年代の先輩たちが浮かれていたといっても、根拠レスだったわけではありません。
日本企業にメタメタにやられた米英企業。日本企業が《褒められて喜ぶ》間に、「このままじゃいかん」とばかり、経営と事業のトランスフォームに乗り出していました。
当時のテレビニュースでは、USの怒った失業者が日本製のクルマやラジカセをハンマーでなぐる、みたいな映像が繰り返し流されていました。
それを見て日本人は、
(アメリカ人って、本当にアレだ...)
(これは当分、われわれの優位は動かないだ ろう...)
などと思ったものです。
当時のアメリカ工業に対する風評もこれまた酷くて、
「労働者は金土日と酔っ払っているから月曜日に作った製品は不良品だらけだ」
「見えないところにタバコの吸い殻が押し込んであるから気をつけろ」
なんて誹謗されていたのです(まあ、ある程度は事実だったのかも知れないけどね)。
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そうそう、これと同じことは、1930年台後半にもありました。
「アメリカはジャズ聞いてダンスにうつつをぬかすダメ国民である」
「黒人さんの兵隊は白人さんを恨んでいるから命令に従わない」
などの風説が流布され、神国ニッポンの武士道精神で鍛えられた帝国軍が鬼畜USに負けることはない→USと開戦しないのは軍の幹部が腰抜けだからだ、などと新聞も扇情しました。
その結果どうなったかは、ご存知の通りです。
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さて1980年代に話を戻すと、米欧の企業は、まずは政治の力で日本を「世界一祝日が多い国」にさせたり、超円高に陥れるなどして、アシストをしてもらいました。
そしてその裏では、
・「経営会計」を駆使し、
・「優先順位付け」を徹底して、価値をうむ製品・組織・従業員には手厚く投資←→ダメ製品・組織・従業員はデスコン(継続しない)を断行し、
・そのためのツールとしてERP導入、そしてデータマネジメントへと進みました。
ただし、猛烈な格差社会になってしまい、感染症も相まって、世情(治安)は極めて不安定になっています。
一方で、No. 1と《褒められた》日本では、その後、
・経営会計が「管理会計」と誤訳されて「矮小化(軽視)」され、
・「優先順位付け」なんて怖くてできないので、これを「戦略」と大げさに超訳して「棚上げ(祭り上げるけど実用化はしない)」
・流行りのERPを巨額で導入したけれど、多くの企業さんがただの会計ソフトとしてしか使っておらず、
・そしてデータ入力機器もいつまで経っても「手書きの代用品」超高級テプラにすぎない。
その結果、みんなで仲良く手を繋いで清貧の道をだらだら下っていく、ということになってしまった。
ただし、格差拡大の度合いよりも没落の度合いのほうが大きいうえ、「空気による支配」は変わらず磐石である。
このため治安の良さは、いまでも『ジャパンアズNo. 1』。
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こんな川柳があります。
先生と 呼ばれるほどの 馬鹿でなし
(ひとから「先生、先生」と呼ばれて思い上がるような人間になっちゃいけないよ)
人間は弱い。程度の差はあれ、「他人から承認されたい」「承認されないとやっていけない」という「性弱」な部分は、誰にもあります。
そこへ持ってきて、2021年は、かつてなく弱気になってしまう人が多くなりそうです。
だからこそ、《褒められたい》という承認欲求はなおさら増すかもしれません。
褒められて嬉しくなるまではいい。そこからです。
「褒められて、張り切って、一層伸びる」ことができるか、
それとも「慢心して、そこで終わる」か。
ここから数年続く危機は、慢心したままで乗り切れるような甘いモノではありません。2021年は、《褒められたときこそ、気を引き締めて》いきましょうね!
一年間のご愛読ありがとうございました。良いお年をお迎えください
TAC USCPA講座 草野龍太郎講師