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昔、仕事で大変鍛えられ、お世話になった先輩が、61歳で亡くなった(コロナではない)。
「格好良い」とは、この人のためにある形容詞である。そう、心から思える人だった。
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その人の後輩への接し方は、典型的な「昭和(S)型」。
今風の「令和(R)型」とは対局を成していた。
曰く>>
仕事ってのはね、盗むんだよ。
「適量」「順番」「問い合わせ先」.....安易に僕に聞くんじゃない。
失敗しながら、恥かきながら、自力で掴んでいくんだよ。
悔しい思いして、もがいて、それで獲得したモノを、自分の血肉にするんだ。
それとね、、、「私、この作業苦手なんです」って、困っちゃうなぁ。
仕事選ぼうっての、百世紀早いからねえ。百年じゃないよ、その百倍ね。
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ハラスメントとはほど遠い、深い魅力に満ちた、お説教。
叱ってもらえるだけラッキーで、大抵の若手は、そもそも仕事のチームに入れなかった。
その人は、常にチームのダイバーシティを大切にし、決してイエスマンだけで周りを固めようとはしなかった。むしろ、自分に挑み、意見を戦わせてくる人を、盛んにチームに入れた。
ではあるけれど、能力的に「話が通じない人」は、絶対にチームに入れなかった。話が通じない人が混じると、お互い何の得もないしさ、そしてクライアントに対して価値を出せなくなるからね、と。
それを伺ったとき、慄然(りつぜん)として悟った。なぜ、「抜群に仕事ができる」ようにならないといけないのか?
それは1に、仕事を選べるようになるから。
そして2には、話が通じない人をチームにかかえてしまうリスクを減らせるから、なのだ。
逆に、仕事が抜群にできない限り、1' 仕事を選ぶことはできなくなるし、2' 話が通じない人ばかりでチームを作ることになる。というかそれはチームとは言わない。
その点、いま標準とされる令和(R)型マネジメントは、マネジャーが抜群に仕事ができなくても回るように設計されたモノである。
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私(マネージャー)は、仕事とは要はマニュアルとタレントマネジメントだと考えております。
あなたに、マニュアルを示します。頭に入れて、その通りにやってください。
「適量」をマニュアルに示します。
「順番」もマニュアルに示します。
「問い合わせ先」はケース別にマニュアルに示してありますよ。
あなたと話が通じるかどうかはどうでもいいです。このマニュアルに沿ってやれるか、やれないか、選んでください。やれるとうならやって。やれないなら辞めてください。
それと、あなたをタレントとしてマネジメントします。あなたの属性を「タグ付け」していきますね。
そして、あなたのコンピテンシに関するデータがこちらに揃ってきたら、あなたの苦手なことより得意なことを選んでアサインしますね。
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ここ数年。昭和S型と令和R型の二極化が進んだ。そして近年は、S型がかなり劣勢にある。
経理業務はもともとR型に親和性が高い。みなさんもすでにR型で職場の「生産性向上」に努めておられるかもしれない。
さて、新人くんたちにとって、本当に「将来の役に立つ」のは、SとRの一体どちらなのか。
心がこもったSと、心が通わないRの2つがあるとしたら、本当に「恐ろしい」のは、一体どちらなのか。
本来なら議論があり得たはずのところだが、もはや「Sは悪」のレッテルを貼られ、議論すら許されない時代になってしまった。
(なお「心が通わないS」は、ただのブラックなので論外。また、「心がこもったR」は「グダグダ」になってしまう)
「格好いいS型」の象徴だった先輩の早すぎる死を悼み、改めて、「生産性」「成長」とは何なのか。そんなことに思いをいたす真夏日である。合掌。
(USCPA講座 草野 龍太郎 先生)