資格の学校TAC > TACメールマガジン > 米国公認会計士バックナンバー
かつて、日本大企業雇用環境の三大特徴として《終身雇用(転職がない)》《企業内組合(就職でなく就社)》そして《年功序列》が挙げられていました。
しかしどんな会社も、就業規則や賃金規定に「当社は《年功序列》制度を用いる」と書いてあるわけではありません。みなさんのお勤め先も、そうですよね?
大抵の場合は、新入社員を最低とする報酬ランクの表が定められており、何か達成すると報酬ランクが上がることが定められている。
あとは、そのランク付けの運用によって《年功序列》制度が維持されているわけです。
運用とは、ランクアップの機会が年に一度の査定会議しかないとか、同じランクに最低2年は留まらなければいけないとか、ランクアップは一度に1ランクだけと決まっているとか、そういうことですよね。
こういう運用によって、例えば新入社員が10ランク昇給するには、最低20年、40歳過ぎまでかかるということになる。
さらに多くの企業では、「組織の幹部である」ことと、この報酬ランクが、かたく紐付いています。
これにより、ある一定以上の報酬ランクに達するためには、「管理職」にならなければならないケースが多かった。
この仕組みは《終身雇用》とあいまって、ある「常識」を形成してきました。
それは、「ふつう」に大過なく勤めているなら、ある年齢で「管理職」になっているはずである、逆に、ある年齢で「管理職」になっていないのはおかしい、という「常識」です。
この「常識」の結果、部下がいない「管理職待遇」の方が爆増したわけですが、いちばんのデメリットは、「デキる」人を現場から引き剥がし続けてきたことです。
「お前もいい年なんだから、いつまでも一線で作業してるんじゃなくて、管理職を目指さないとダメだよ」
先輩も、「常識」の中で生きていますから、愛を込めてそう忠告してくれます。「年くっても管理職になってなかったら、苦労するぞ」ってね。
これにより、現場は優秀な専門家を失い、管理にまったく向いていないしモチベーションもない管理職が増えました。
かつて西郷隆盛は
「その職にたえぬ人を、官職をもって賞するは、よからぬことの第一なり。功ある者には、俸祿をもって賞すべし」
「できる」現場の方には、現場にいてもらったままで、高給で報いれば良い。スポーツ選手を考えれば、すぐわかる話です。プレーできている人を、わざわざ給料上げるために引退させてフロント入りさせたりしませんよね。
あ、この「できる」ってのは、職場の文化への貢献も含めての話です。とくに次世代への伝承という貢献は最重要。
自分1人の作業はできるんだけど、それ以外ではまわりに貢献できない。その人が威張り散らかしているために現場が萎縮している、暗い、その人には何も聞けない。
そんなことがあるなら、その「牢名主」に報いてはならない。
こういう人事評価ができていれば、現場から「できる人」がいなくなりにくいし、管理職の会議室に「管理職に向いてない人」が溢れることも避けられたかもしれません。
..... という話が、突然、日本大企業の間で「コンセンサス」になってきました。
この夏から、大企業がリーマンショック以来の人員削減に乗り出しています。ターゲットは日本的「管理職」。
企業のかたちを根本的に変えざるを得ない今、40代・50代で「常識」に基づき「管理職(待遇)」にされてしまった従業員には、二つの道しか残されていません。
現場仕事に戻ってそこでスーパーエキスパートになり、現役として長く尊重されるようになるか。
経営というプロフェッショナルの世界で一流になって、生き延びるか。
いずれの道も、熾烈な戦いの最前線です。「管理職」の会議室とは、全く異なる厳しさと向き合わなければなりません。
まずは、地の能力が要るし、
年下の方々にいろいろ教えてもらえるために、謙虚さと可愛らしさも要るし、
体力・気力、そして視力なんかの衰えとも、しっかり折り合いをつけていかなければならない。
その上で、チームや社会に「貢献」している、バリューを創っている、ということが、誰の目からも認められなければならないわけです。
これ、けっして恐怖訴求ではありませんし、「意識高い系」の煽りでもありません。いま、そこにある、客観的な現実なんです。
長く現場で輝くか、それとも、経営という世界で万に一つの成功に賭けるか。
自らの適性に合致した「貢献方法」を、しっかり磨いておくことです。ムダにする時間は、まったくありませんね。
あ、今年ももう、12月ではありませんか!
(USCPA講座 草野龍太郎先生)