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ピカソが、どうしてもと頼み込まれて仕方なく、その場でサラサラとスケッチしたところ、依頼したお金持ちが「たった3分で描くのか」と約束した額の支払いを渋った。
ピカソは「3分で描くために、30年かかってるけどな」と応えて、その金持ちにはスケッチを売らなかった。
... 尾ひれはひれ伝説だろうが、いい話だ。
台風15号の被災地で、困り果てた行政が、「屋根の上にブルーシートを張れる職人さん」のボランティア活動を募っている。
それなりに高度な専門技術を持った上で、脚立をはじめ必要な工具を持参でき、なんならブルーシートとロープ自体も持ってきてほしいという。もちろん食事や水も自給だ。
被災地の行政のみなさんを責める意図はまったくない。社会を挙げてこの50余年の間、「技術を要する作業」を軽視してきたツケが、回ってきているだけなのだ。
現場作業を、キツくて危険で汚い「3K」だと侮蔑(ぶべつ)し、親は職人さんを指して子に「ああならないように勉強しなさい」と教えた。
「大学」は雨後の筍のように増加した。
その結果、何が起きたか。
本来なら、《現場》で修行して、高級・上級な技術を身につけ、「作業のプロ」となることを目指すべきだったかもしれない人々が、《現場》には居なくなった。
彼らは(いや、われわれは、と言うべきか)、安全でキレイな《オフィス》に通勤し、「企画」だの「管理」だのの仕事に殺到するようになった。
そして、
「オレたちの手足が《現場》にたりない。優秀な人財が不足している」
と嘆いている。
嘆くだけでなく、なんなら人手不足倒産を余儀なくされている経営者も激増している。
さらには、今日の《オフィス》の実相はと言えば、本来なら《現場》で尊敬され重用されていたかもしれない方々が、ホワイトな《オフィス》に埋もれている。
勤務する《オフィス》で「企画」「管理」の仕事が足りなくなり、競争にあぶれてしまった。かと言って、今さら《現場》に出ることなどできるはずもなく、ただ《オフィス》で時間を費消している。人類史上最強の解雇規制法規に守られながら...。
これは、平成不況だの、国際競争での敗北だののせいではない。それはきっかけに過ぎない。
もともと《オフィス》が、定員をはるかにオーバーしてしまっていたのだ。
総務省『労働力調査』によると、全就業者中の「会社員」は、1950年代に就業者の3割程度であったのが、高度成長期に率がぐんぐん上がってバブル期に70%を突破。
平成不況期にも(不況だからこそ)率は上がり続け、いまや就業者の8割超が「会社員」となった。
人財は《オフィス》に殺到し、《現場》での「作業」をしなくなったわけだ。
どうだろう。答えは明白だ。
■会計プロフェッショナルとして、いつでも《現場》で「作業」できるように、トレーニングを怠らないこと。
企画・管理・マネジメント業務の多忙さにかまけて、「作業は《下の者たち》がやること」「オレは手を動かすべきでない」と思うようになったら、
それはあなたの価値の、減損の兆候である。
いつもキツい説教で申し訳ないが、これは真理だ。
いつまでも「手が動く」こと、 多少スピードは遅くとも、会計プラットフォームやBIツールを、自ら使いこなせるようにしておくこと。
今日から始めることを、強く勧める。
台風被害地の一日も早い復旧と、そして、《現場》で復旧「作業」にあたるすべてのプロフェッショナルの無事を祈ります。
(USCPA講座 草野龍太郎先生)