資格の学校TAC > TACメールマガジン > 米国公認会計士バックナンバー
以前も書いたが、《自立》とは、「他人に依存しないこと」ではない。
全くその逆で、「依存先や代替手段がたくさんいる/ある」状態こそが《自立》である。
小児科医の熊谷晋一郎さん(新生児仮死の後遺症により脳性まひの障害を持つ)『自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと』
https://www.tokyo-jinken.or.jp/publication/tj_56_interview.html
生まれたばかりの子供は、親にしか依存できない。その後の人生で、一族や地域や学校や職場や各種コミュニティなどの中で、他の人たちとの関係を作っていき、ものごとを頼める相手が増えていく。
これが《自立》してゆくことである。
ものごとを頼める相手ということは、その相手からも何かを頼まれる、ということでもある。
自分が相手の依頼先になることで、相手の《自立》を促進することになり、ひいてはそれが自分自信の依頼先を作ることになるから、自分も《自立》が推進される。
人間関係とは、そのようなものだ。
しかし、中には、そのような関係を嫌う方もおられる。というか、そういう関係を嫌う方が増えている。
そういう方々は、《自立》するために、「依頼先」ではなくて「発注先」を作ろうとする。
人間関係で依頼し合うのはイヤなので、ビジネスとしてカネで解決しようという戦略だ。
とくに現代の大都会の真ん中に住んで働いているなら、この戦略は間違ってはいない。ほとんどのサービスが、お金で買えるからだ。
考えてみれば、みなさんが資格を取ってプロになるということも、他のだれかの依頼先になろうとしているわけだ。
これすなわち、他の誰かが《自立》をカネで買うための手伝いをしている、ということなのである。
ただし、この《自立》をカネで買う戦略、うまくワークするのは、今回の超強力台風のような災害で都市機能が止まらなければ... の話である。
千葉県、たとえば市原や館山などで、停電などにより大きな被害が出た。復旧にも大変な時間がかかりそうだ。
こういう「非常(=常ではない)」事態のとき、《自立》をカネで買う戦略は、大きな行き詰まりをみせる。
例えば、空港や駅で、係員さんに長時間ゴネて怒鳴って、時間を費消している方々。
その間に、もしかしたら残っていたかもしれない代替手段は、どんどん埋まっていってしまうのだ。
《自立》をカネで買う戦略は、たしかにとてもラクで便利だ。しかし、「ラクで便利」な状況が当たり前になると、人間はそれ以上を考えなくなってしまう。
たしかに人間関係は、面倒くさくて辛いことも多い。
しかし、いや、面倒で辛いからこそ、人間関係による《自立》のほうもサボらず自分に課しておくことは、意味のあることだと思う。
とくに日本ムラでは、「約束を守る」ことが極度に重視される文化が、根強く残っているからね。
多くの他人から商売抜きで依存され、しっかり役割を果たしている。この評判こそが「信用」に繋がるということは、我々のDNAに刻まれているから、そう簡単には変わらない。
であるから、《自立》をカネで買う便利さに甘んじず、人間の相互の依存関係のほうも、しっかり育てておいたほうがいいのだ。
ましてや、カネで買う《自立》は環境の激変・急変に弱い。そしてこれから先も「記録的な」変化や自然災害が、どんどん押し寄せてきそうだ。
今回の台風15号は「記録的な強さ」だったわけだが、これでもう当分こんなのは来ないだろうよ、などとは、到底思えないよね?
(USCPA講座 草野龍太郎先生)