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お金を借りたら、金利をつけて返さなければいけない。たとえば「10,000円借りて、10,100円返す」というように。
この、金利を「つける」というのはもちろん、金利が「プラスの数字」だからだ。
これが、もしもお金を返すときに金利分を「引いて」返済するという契約であれば、「金利がマイナス」ということになる。10,000円借りて、9,900円返す。
そんなことになったら誰も他人にお金を貸さなくなる。マイナス金利なんて想像できないとふつうは思う。
しかし、このマイナス金利が、日本と欧州のBond(債券)市場で現実となって久しいことは、読者のみなさんもご存知のとおり。
「マイナス金利」。まさに、人類史上初の事態である。
世界的に「成長」への期待が下がっている、という大きな流れのあらわれである...もっともらしく説明をつければ、そうなるのかもしれない。しかし実態は、日本と欧州が、金利をマイナスに下げることによって自国通貨を下落させることで、経済危機を脱しようとしたということだ。
(自国金利下がる→自国通貨が安くなる→輸出が増えるなどにより→自国経済が活性化する.....この理屈はBECで学んでください)
欧州は、債務危機以降の危機を、輸出を増やして乗り切ろうとした。日本は、バブル崩壊後の超円高と資産デフレの悪循環を、円安→株高で脱しようとした。
日欧がこんなことをできたのは、ひとえに、アメリカがドル高について寛容だったからである。
言うまでもなく、今日の世界経済はアメリカの巨大IT企業たちに牽引されている。日欧の「マイナス金利政策→自国通貨安」戦略は、アメリカ経済の長期的好調さあってこそ、だった。
ところがここに来て米国も、10年半ぶりの利下げに転じた。
トランプ政権はFRB(アメリカの中央銀行)に対し、アメリカの金利水準が他国よりも一段高い現状を早急に解消するよう求めている。ドルだけが高い!という状態について、アメリカが「そろそろ皆さん調子に乗るのやめてください」と言い出したわけだ。
これを見た専門家の中には、アメリカが本格的に通貨安競争(通貨戦争)に参戦し、「ゼロ金利」「マイナス金利」になってしまってもおかしくない、という極論も出ている。
もし「プラスの金利」がなくなってしまったら、世界は激変するに違いない。
そもそも、将来キャッシュフローの現在価値を出すために「Discount (割引)」するのもは、金利がプラスだからである。
もしゼロ金利になったら、将来キャッシュフローを「割り引く」ことはなくなるし、マイナス金利になったら「割り増す」ことになる。
ファイナンスや資産運用などの実務から、USCPA試験などの学習レベルまで、「ゼロ金利」「マイナス金利」がどれだけ大きなインパクトを持つか... 想像するだけでおそろしい。
まあ恐怖訴求はこのくらいにしておこう。ただ、けっして目を背けてはならないことは、われわれは、これまでの「常識」が通用しない事態がいつ起きるかわからない世界を生きている、ということ。
これまでの「常識」をしっかり学ぶことは不可欠だが、その「常識」がひっくり返ったらどうなるのか?を考える柔らかさを保つ努力をすること、これも重要ですね。
(USCPA講座 草野龍太郎先生)