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2019/07/24
成功し続ける方法/354回 <フリーランスと正社員>
お笑いタレントが数千人所属する巨大芸能事務所。大半の所属タレントとの間で契約書がなかったことが明るみに出た。

巨大事務所は「民法上は口頭の合意で契約が成立する」などと抗弁している。これに対して「下請法違反なのではないか」との声が出ている。

その議論はおいておく。改めて考えたいのは、芸能タレントさんは芸能事務所の「正社員」であることは少なく、大概は「専属契約を結んだフリーランサー(個人事業主)」であるということだ。

(かたや、そのタレントさんのマネージャーの方々の多くは、●●興業や■■プロダクションの「正社員」である)

雇う側のリスク感覚から言うと、フリーランサーという人種は、

「こんな仕事、やりたくない」
「こんな会社、辞めてやる」

などと、いつ裏切るかわかったものではない。

そこで雇う側は考えた。うちの使用人(←会社法用語)に、フリーランサーみたいに「やりたくない」などふざけたことを言わせないためには、どうすればいいか。

まずは使用人を、『(正)社員』と呼ぶことにしよう。本来「社員」とは出資者のこと(株式会社では「株主」)だが、そんなこと一般人は誰も知らないのでどうでもいい。

で、その『正社員』をどっぷりと福利厚生漬けにしてくれよう。

もちろん家族も含めてだ。「会社辞めたら人生終わり」と、親や配偶者や子供たちからも泣きつかれ、転職ブロックされるようにしたるわ。うむ。

...数十年にわたり日本の雇用制度の頂点に君臨してきた『正社員制度』。その本当の要諦は、実は年功序列などではない。

健康保険の半額補助と確定「給付」企業年金などに代表される、数々の分厚いフリンジベネフィットがあるのが『正社員』なのだ。

高度成長時代には、社員保養所や住宅ローン利子補給、さらに新幹線通勤代や休業保障などますますフリンジ強化。

(取りにくいけど)有給休暇も増量付与。

ちなみに、人類史上最強と称される日本の『正社員』解雇規制は、その豪華フリンジパッケージに後から司法が加えたものである。

しかし、、、

健康保険料は年々ひっそり値上げされ、いまや(半額補助されようとも)超高額となった。

さらに、企業年金は続々と確定「拠出」制度に移行。運用は自己責任だ。

体育館やグラウンド、社員寮などの保養施設もほとんどが売却された。

そして解雇規制も、昨年あたりから「事実上指名解雇式早期退職勧奨」が大流行しはじめて、大きくゆらいでいる。今後日本でも、たとえばフランスのような「金銭解雇」が制度化される可能性が、日増しに高まっている。

...というわけで、使用人に忠誠を誓わせ、モンスター化させないための『正社員制度』だったが、経済の停滞にともなって維持できなくなってきたのがイマココだ。

私見だが、『正社員フリンジベネフィット』が充実しすぎたのが、この制度の衰退を招いたと考えている。使用人たちは福利厚生にどっぷりと浸かり、「裏切らない」どころか、「リスクは取らない」「新しいことはしない」「異能なヤツは追い出すか、少なくとも出世はさせない」というところにまで飼い慣らされた。

みなさんの職場ではいかがだろうか?経営者の方々が最近突然「トランスフォームしろ」と言い出したが、現場ではそれをまともに受け止める『正社員』はほとんどいない。変革の片棒をかついでも、今よりフリンジが増える見込みはない。ならば面従腹背で変革を遅らせるのが賢明というものだ。

それがレガシー企業の実態ではなかろうか。経営側にとって、『正社員制度』が、フリーランスたちと結ぶ「業務委託契約」よりも安心安全効率的であるとは、誰にも断言できなくなってきたわけだ。

かつては、「おまえ会社からどれだけ良くしてもらっていると思っているんだ?やりたくないなんで絶対言えないだろう?」と圧力をかけられて、多くの会計パーソンが不適切な経理(というか不正経理」に手を染めてきた。

しかし、国を挙げての企業ホワイトニング運動のもと、会社は「やりたくないと言わせない」なんて絶対に言えなくなった。そんな録音やメールが流出したら、一発で終わりだ。

悪いことに、その浄化運動につけこんだ『モンスター正社員』も現れた。不正でもなんでもない、本当にやるべき業務に対しても、「やりたくない、だから、やりませ〜ん」と言い放つ。もちろん手元ではスマホで上司の感情的失言を録ろうと狙っている。

このような『モン正』は、ジュニアだけでなく、開き直ったシニア世代にも増えており、ミドル中間管理職のメンタルを食い荒らしている。

もちろん、このような『正社員制度の実相』は、まだ広く知られているわけではない。情報弱者の方々には、未だに「正社員辞めたら人生終わり」と信じている方も多く、配偶者や子供の転職意思をブロックしようとする方々はたくさんいる。

ただし、大都市の中心ではそうでもなくなりつつある。これまた私見だが、現金しか使わない人の比率と『正社員制度』を信仰する方の率は、相関があるように思えてならない。

長くなったからここでやめるが、本稿で言いたかったことは、「雇い方」「雇われ方」にもダイバーシティが必要になってくるということ。あなたが経理部署の責任ある立場なら、フリーランスのプロをもっと雇ってもいいだろう。また、あなた自身が市場価値があるプロなのであれば、『正社員』という名の使用人雇用契約だけに縛られなくてもいいんじゃないか、ということです。


(USCPA講座 草野龍太郎先生)
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