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日本経済新聞の「私の履歴書」が、毎月おもしろくて助かる。
5月の橋田壽賀子先生。草龍は実際にお仕事で謦咳(けいがい)に接したこともあり、引き込まれて読んだ。『おしん』の国民的大脚本家ですら、夫君を亡くして天涯孤独とおっしゃるか現代の東京の様相は、身につまされる。
6月の石原信雄・元内閣官房副長官。仕えた首相は空前絶後の7名、それも自民党が下野した時も含めてという稀有な記録をお持ちで、石原さんの「履歴書」というよりは平成政治史が明かされていくような連載だった。
石原さんといえば、1月の石原邦夫・元東京海上日動火災社長の連載も、ちょっと話題になった。一橋の楠木建先生がプレジデントオンラインで、こんな感じで激賞したからだ(以下引用)。
「創業経営者と比べると、大企業の経営者による『私の履歴書』は面白くない。とくに金融系はつまらない。
それにしても、石原氏の連載には刮目させられた。底抜けにつまらないのである。他の大企業経営者と比べても、つまらなさの次元が桁違いである。
そのつまらなさが、たまらなく面白く、大経営者の凄みと美学を感じる」
楠木先生、いったいなんちゅう褒めあげかたなんだろうか。
さてさて、現在7月の連載は、プロゴルファーの中嶋常幸さんだ。
天才ゴルフ少年といわれ颯爽とデビューしたものの、ウラでは父親の英才教育どころか酷いDV、それにたえかねての家出と自殺未遂、、、おいおい、って感じのエピソードが毎朝ひょうひょうとつづられる。
初めてマスターズに招待されて大惨敗を喫した話も壮絶だ。
「ゴルフトーナメントの試合が終わればマージャン、パチンコ、映画や将棋。ラウンド後に練習をする選手はいなかった」という時代。父のDV的ながら独創的な指導のもと、猛練習を重ね、瞬く間に国内では指折りのプロになる。
24歳で、世界最高峰のマスターズトーナメントへ招かれると、「優勝宣言」して乗り込んだ。
ところが結果は大惨敗。1ホールの大たたき記録を43年ぶりに塗り替えた。しかも優勝したのは、3つ下のバレステロス。
狭い国内で「天才少年」と持ち上げられた自分のゴルフが、いかにみすぼらしい井の中の蛙(かわず)であったかを痛感させられた、、、
どうだろう。日本ですっかりマジョリティを占めるに至った「心理的安全史上主義者」の方々が、手を叩いて喜ぶ内容だよね。
「ほ〜ら見なさい、こんなひどいことになるから、調子ぶっこいてナワバリから出ようとするのは、ダメなのよ」
みたいな。
グローバル化・デジタル化にキッパリと背を向ける、ドメな「安全第一」のみなさん。その結果じりじりと収益が減っていき、ついにはインフラ(更新)投資すら、お金がなくてできなくなっている。
しかし、そんな衰退ドメ組織の「内」では、逆に「幸福感」を増進できる可能性があるのだ。いわば「花見酒衰退」だ。
みんなで手をつないで堕ちて行ってることは確実なのだが、外にはわき目をふらず、内ウチで見つめあってさえいられれば、意外なことにヒトは「幸せ」でいられるということである。
■「内部」での贈り合い・おごりあいをさらに増やす(他人のための消費は、ひとを幸福にする)
■「内部」でさらに物理的に固まり、「内向けの」コミュニケーションを密にする(それもひとを幸福にする)
■「内部」でのお互いの尊敬と助け合いにいっそうフォーカスする(ひとを幸福にする)。そのために結果平等を推進し、相互比較は徹底排除する。成果主義を廃止して完全年功序列報酬を復活するなども望ましい。
このように開き直った「花見酒衰退」が、大企業で、中小企業で、自治体で、学校でとあちこちで盛んになったのが、平成の30年であった。
そんな今だというのに、世界に挑戦しては大失敗を繰り返し、ついには「世界のトミー」となった中嶋常幸さんが、『履歴書』...というか『黒歴史』を、ひょうひょうと書いてくださる。
まるで、
「ほんとの『心理的安全』ってのは、『弱みを隠し合わなくても済むこと』なんだよ!」
と示してくれているようだ。
7月中旬以降も、中嶋常幸さんの『私の履歴書』から目が離せない。
(USCPA講座 草野龍太郎先生)