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2019/06/05
成功し続ける方法/348回 <今月こそ!>
終身雇用制度をめぐる議論が活発化している。

実際には、終身雇用で定年まで勤務する方は労働人口の1割程度にすぎないという。しかし、終身雇用制度は日本式経営の三本柱のひとつ(他の二つは「年功序列」「企業内組合」)と称されてきた。

終身雇用や年功序列が就業規則にハッキリと記されているわけではない。ただ定年は明示されている。そして、その年齢に達する前に会社が従業員を解雇することは極めて困難だ、というのが「終身雇用制度」の実相である。

従業員を単に「能力が足りない」という程度では解雇できないし、「職場で迷惑をかける」程度でも解雇は難しい。

ヨーロッパの多くの国にも定年制がある。しかしたいてい金銭による解雇が制度化されている。何年か分の報酬を支払えば解雇できるという仕組みだ。

この金銭解雇も、日本の司法は積極的には認めていない。

(消極的には、解雇をめぐる紛争の結果、「解雇をいったん取消したうえで → 金銭(慰謝料)をともなう退職」という解決(和解)が図られることは少なくない)

とはいえ、企業による「早期退職勧奨」が活発になってきている。あくまで従業員自身の意思で退職を選択する制度なので、建前上は金銭「解雇」とは異なる。あくまで建前上は、だ。

終身雇用は、そもそも職業軍人を確保するために始まった制度だと言われる。平時に安定した報酬や福利厚生を保証するかわりに、有事となれば文字通り「懸命に」働いてもらう。

この雇用慣行は、民間企業が取り入れても労使双方にとって好都合だ。だから、滅私奉公やサービス残業や土日の付き合いも「当然」とされてきたのだ。

ただし、国がファイナンスする軍と異なり、私企業でこの制度が続くためには、永続的な成長が必要不可欠だ。このとても大事なところの理解が、20世紀後半の経営者や政府や司法のみなさんに欠けていた。

欠けているうちに、終身雇用・年功序列は、たんなる雇用慣行から「道徳的規範」に昇華してしまった。だからいままで、日本の経営者は雇用に手をつけることができなかった。

草龍はむかしある会社に、ターンアラウンド(再建)のために取締役として入ったことがある。退任していただいた社長さんは最後まで従業員たちに「ぼくの在籍中、業績の低迷は別として、誰一人としてリストラしなかったことは、ぼくの誇りだ!忘れないでほしい!!」と訴えておられた。

「業績は別として」、、、しかもこういう泣き落としがまた、けっこう通じちゃうもんだから、日本経済全体が低迷したのも無理はないよなあってつくづく思ったものだ。経営も従業員も合意のうえの没落。文句は言えないってところだ。

雇用を「守る」ことで、国内経済への投資の機会や変化の機会がことごとく失われた。

かたや、アメリカなど企業は、日本企業にコテンパンにやられたあとの1990年代から、グローバル化を推進した。なんなら製造部門を持たないことにして、アジアなどにアウトソースした。iPhoneには「designed by Apple」と刻印されたが「made」「fabricated」の言葉は使われていない。

その結果、彼らはソフトウェア企業に特化したり、もしくは世界規模の大量生産に特化したりして資本収益率をあげたわけだ。

なんでそこまでしたかと言えば答えは簡単で、企業の目的が「雇用維持」ではなかったから。

企業は「株主価値の向上」のためにあるのだ。USCPAやUSCMAなどの学習では、この点を見誤ると苦労する(そしてもちろん合格後もです)。

最近は企業の社会的責任がクローズアップされる。しかし、SDGs(サステイナブルな開発ゴール)経営にしても、ESG(環境・社会・ガバナンス)重視を掲げるのは、けっしてキレイゴトやイメージ作りのためではない。企業にとっては、競争を勝ち抜いて株主価値を上げるための戦略なのだ。

企業が猛烈にダイバーシティを促進するのも同じ。とにかく従業員に選ばれて、そして顧客に選ばれる企業になれなければ、今後持続的に企業価値を向上させるなんてとても無理なのだ。

もちろん、「企業価値最優先経営」を手放しで賛美しているのではありません。この30年のグローバル化の結果、かつての「先進国」では中間層が崩壊し、経済格差が強烈に拡がり、問題は深刻化どころか過激化している。

という状況のところに、周回遅れ(3周くらい遅れ?)で日本企業が、従業員の「雇用維持最優先経営」を見直し始めているわけだ。混乱は必至である。

これからどれだけの「常識」「当たり前」があっさりとくつがえされていくか、「約束」が反故(ほご)にされていくか。

「草龍先生のお話は、不安になりますう〜」と愁訴(しゅうそ)する人が必ずいるが、その手の「弱者アピール作戦」は、あくまで安定期に有効な戦略である。

これからは、不安になっていても始まらないし、他責していても保障は得られない。仲間と家族と自分のためを思うなら、おのおのが「個人価値」を最大化するように精進しつづけるしかない。

そのためには今こそ、新しいことを始めるために、ムダなことをやめて時間創出に全力を注ぐにかぎる。これ、年始にも説いたことだが、ほんとうに始めた方がよいよ。


(USCPA講座 草野龍太郎先生)
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