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出張巡業。パリを後にして、ロンドンに向かう。
ここで書くことじゃないかもだが、もしあなたが電車(ユーロスター)でパリからロンドンに行くなら、2点注意されたい。
1.EUパスポートがない旅客は、パリ北駅での通関(フランス出国&イギリス入国と、荷物検査)で1時間以上行列すると覚悟し、パリの予定を超早めに切り上げて駅に行くこと。
2.ユーロスターの出発および到着は30〜40分遅れると見込んでロンドンでの予定を立てること。
まだBrexitしておらず、イギリスはEUだというのにこのありさまだ。これでEU市民も同じNon EU列に並ぶことになったら、いったいどれほどの行列になることやら。
さて、Brexitといえば、ロンドンで日本人の高校生さんから聞いたジョーク。
「『Brexit』って、出かなきゃいけない時刻なのに居座ってるヤツを指して使うんだよ」
これには笑った。
ロンドンで学ぶ若い日本人は多い。そして、近年とても増えている。らしい(データが見つからないが)。日本人エキスパットが連れてくるお子さんが増えているのではなく、「日本におられる親御さんがお子さんをロンドンに留学させる」というケースが増えているのだという。
海外留学協議会(JAOS)さんによると、日本からの留学生の行き先はUS・オーストラリア・カナダが3強で各1万数千人。これに、フィリピン・イギリス・ニュージーランドが5〜7,000人で続く。その次は韓国・中国が2,000人、フランスが1,500人とのことで、やはり英語圏が人気だ。
http://www.jaos.or.jp/wp-content/uploads/2018/12/JAOS2017%E7%B5%B1%E8%A8%88%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9181205.docx
海外留学する若い方の中には、ほんとに文字通り学んでくる方もおられる。海外のコトバや、文化や、人付き合いの仕方。そういう方は、頼もしい。
というのは、海外の留学先では、日本人ムラの引力がモーレツに働くからだ。そのムラ力のため、まったく外国語を使わないままに「留学」から帰ってくる方は、少なくない。
そのような「ブラックホール重力場」にあって、あえてムラのムレから脱してほんとうに勉強したというのはすごい。習ったコトバやMBA学位よりも、その離脱経験こそが、なにより貴重な財産だ。
... などと知ったようなことを書いている草龍だが、じつは海外に住んだことがない。留学も駐在も、親の赴任について行ったこともない。
英語で話していると、相手によく「あんた英語どこで習った?」と聞かれる。「純粋にメイド・イン・ジャパンだ」と答えると「へえ、それにしちゃあ上出来だな」と言われる。
これは要するに、おまえの英語は「下手だが通じないことはない」という意味だ。しかし草龍は、それを「とにかく通じている」と良い方に解釈するタチなので、会話でも会議でもプレゼンでも講演でも、平気で英語でやる。
こんな草龍を、遠い日本ムラから眺めると、草龍は「留学もしたことなく下手なくせに恥ずかしげもなく」英語を使うヤツ、ということになるようだ。
この「◯◯なくせに恥ずかしげもなく」という批判は、ムラ用語の基本フレーズ。ムラビトとしてもっともよろしくないことを指弾する表現である。よろしくないこととは、もちろん、「ノーム値(ふつうである度合い)から外れたことをしていること(この場合は英語を使うこと)」である。
「◯◯なくせに」の◯◯は、実はなんでもよい。年齢でも、性別でも、学歴でも、なんでもだ。ゆえに、◯◯という部分だけをとらまえて「誤解だ」「旧弊だ」などと反駁しても、まったく意味がない。
さらにこの基本表現には、「ちょっと▽▽だからといって調子に乗って」というフレーズが付加されることも多い。
(例文:「TOEICがほぼ満点だったくらいのことで調子に乗って、留学もしたことすらないくせに、恥ずかしげもなく」英語を使うヤツだ、草龍は)
こういわれるほうはストレスだ。しかし、ムラのみなさんも、べつに喜んでこういうネガティブ表現を使っているわけではない。止むに止まれず口にしているのだ。いわばアレルギー反応なのだ。
「ノーム値から外れたふるまい(を平気でする人)」を見るだけで、不安と恐怖と怒りで多大なストレスを受けるのだ。だから、このような呪詛を口にせずにはいられないのだ。
グローバル資格を目指すみなさんも、このことには、うすうす気づいていると思う。
とにかく「◯◯なくせに恥ずかしげもなく」は、あいての辛さをおもんぱかって、一切スルーすること。受けて立つのは、絶対NGだ。
ここからはあとがきね。
「ノーム値から外れたタレント」が、マジョリティのストレスをかきたてることなしに、自分の強みをぞんぶんに活かせる社会や企業。もしもこれが増えれば、日本ムラには困窮から脱する機会が拡がる。しかし、日本がそう変わることは「ムーンショット(人類を月に送る)」どころではない困難なことなのではないか。ロシアとUSが合併するくらいに、ものすごくありそうもないことなんじゃないだろうか。
そんな風に考えている方々が、増えている。そういう方々は、自分の子女がムラの「ストレス源」「アレルゲン」になってしまわないように「対策」を講じ始めている。
在ロンドン留学生の増加は、その「対策」の一端なんだよ。。。ロンドンの大学に勤務する日本の旧友が、パブでビールをすすりながら、ぼそりと言いきった。
日本政府の政策にもかかわってきた彼が、東大教授を自ら辞してUKに来たのは、UK の「今」が、日本の「これから」を示唆していると信じるから。日本の「今後」を考えるヒントは、ロンドンにこそたくさんあるんだという。
ムラから逃れてここにきた若者たちと、ムラを建て直すスベをもとめてここにきた泰斗(たいと。まあ、超大物って意味です)。ロンドンで、そういう人たちに会ったという報告でした。
ではみなさん、よい「令和」をお迎えください。
(USCPA講座 草野龍太郎先生)