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春は出会いの季節である。と同時に、別れの季節でもある。
職場に「デキる人」がやってきてくれた。その出会いのウラには、職場から「デキる人」が出て行ってしまったいう別れがある。複式簿記の仕訳みたいなものだ。
さて、「デキる人」が抜けるのは、チームにとって残念なこと...かというと、これが必ずしもそうとは限らない。
その人の人並みはずれた活躍を、実は他のメンバーは冷たい目で見ていた、ということは少なくない。その人がいなくなることを、残った人たちは、じつは内心で喜んでいたりする。「すごくデキる人」は、往々にして「浮いている人」でもあるよね。
組織を、速攻で・大きく・強く伸ばそうとしているなら、こういう「デキるけど浮いてる人」、というか、「浮いてしまうほどデキる人」を、けっして手放してはならない。
しかし、組織を、穏やかに・安定的に・長続きさせようとしているのなら、「浮いてしまうほどデキる人」には、むしろ、出て行っていただくほうが、お互いによいのかもしれない。
ここ数年、日本も世界も景気がよかった。資産家や大企業(の正社員)しか恩恵を受けていないという批判もあるが、それでもマネー余りのプラス影響はとても大きかった。
そのひとつが、起業ブームだ。
ビジネスを立ち上げて、それを速攻で・大きく・強く伸ばそうとする人たちが、大量に発生した。
多くの学生さんが起業し、そこに大企業の余りまくっているお金が投入された。「うちの『R&D部門』は、いつのまにか『投資部門』になっているよ」なんていう話もよく聞く。
大きな企業は、穏やかに・安定的に・長続きするからこそ、その存在に意味がある。
そもそも、組織が大きいということは、人が大量に集まっているということであり、それは通常、「ふつうの人たち」が大量に集まっていることを意味する。
もちろん、「異能の人たち」が大量に集まるような恒久的な大組織もあるが、それはきわめて例外的だ。
なぜなら、「大量の」人たちを同じ目的に向かって動かすには、「統一された仕組み」に「従ってもらう」ことが不可欠だからである。
「ふつうの人たち」が「仕組みに従って」動く。これが現代のほとんどの大企業の強みであり、また、弱みでもある。
弱みというのは、新しい事態に対応できない、組織の中からイノベーションが起きない、などだ。これはさんざん言い尽くされているね。
その一方で強みというのは、穏やかに・安定的に・長続きさせようとするならば、かなりうまくいくということだ。
ここ数年の好景気の影響で、とくに若い方を中心に、 大企業の「弱み」ばかりが極端にフィーチャーされてきた。起業家やフリーランスがもてはやされ、「終身同じ会社に勤めることこそリスクだ」と煽られる。
しかし、景気には良い時も悪い時もある。「速攻で・大きく・強く」ビジネスを伸ばせる人が、これまでの数年と同様に今年もたくさん生まれるとは、限らない。
ということで、何を申し上げたいかというと、「組織には『浮いてしまうほどデキる人』が必要だ!」という扇動には、カンタンに乗ってはならないということ。
また、ご自分のことを「浮いてしまうほどデキる」と自覚しておられる方は、少しでいいから考えてみる時期にきているということ。
「デキるなら、組織で浮いても、ほんとにいいのか?」
ってね。
(USCPA講座 草野龍太郎先生)