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むかし、タレントの哀川翔さんが、お子さんを教育するのに「家の中でゴミをまたぐな」としつけたとおっしゃっていた。ゴミが落ちているのを見つけたのなら拾って捨てなさい、見て見ぬ振りをするんじゃない、と言う教えである。
これと似た例えで
「トイレットペーパーを使いきって新しいロールを補充しない人間は何をやらせてもだめ」
「薄く一回転分だけ残して立ち去る奴はそれ以下のだめな人」
というような言葉をネットで見かける。
言うまでもなく、「家の中に落ちているゴミ」や「終わりかけているトイレットペーパー」というのはものの例えであり、職場や家庭で日々遭遇する問題や課題のことを指している。
みなさんのお仕事の一部(ひょっとして大半)は、このような「ゴミをまたぐ人」「トイレットペーパーを薄く残して逃げる人」との闘いなのではないだろうか。
「あー、やっぱりそうなりましたか。ぼくね、前々から、これはまずいなーと思ってたんですよねー。やっぱりきたかー」
何か事件が起きた時に、こういうことをヌケヌケと言う人がいると、それを聞いただけでチーム全員が著しく疲弊する。リスクをわかっていたなら何かしておきなさいよ。
事件を解決すべくチーム全員が動き出しても、それでもなお、こういう人は動かない。というかまた逃げて、いなくなってしまう。
残念ながら、この「逃げるクセ」は、決して治ることはない。逃げる人は何度でも逃げる。「恥だが役に立つ」とアタマで考えて逃げるのではなく、脊髄の反射神経で逃げる。
どんなにひどい逃げクセがある人でも、正社員でさえあれば、決して解雇されることがない。であるから、組織のリスクマネジメントの観点からは下記の措置が必要になる。
・逃げる人、ゴミをまたぐ人、トイレットペーパーを補充しない人を、なるべく早期に発見する
・その人へアサインする仕事をコントロールし、与える権限も限定する
・逃げない人が「逃げる人からメンタル被害を受けている」ことを理解し、そのことを、逃げない人にきちんと伝える
「内部統制」とか「企業のリスクマネジメント」とか言われるものの柱の一つは、上記の3点に集約される。
しかし、マネジャーがこの3つの実践から「逃げる」ことがあるから、ことは厄介だ。逃げる人を取り締まることから逃げる。まさにメタ逃亡と言えよう。
組織での昇進の条件の一つが「ゴミをまたぐような人ではないこと」だったらよいのだが、多くの組織は年功序列を基本とするので、逃げクセがある人にも順繰りに権限を与えてしまう。
逃げクセがあるのに決定権を持ってしまった人は、これは簡単に判別できる。決定をもとめられると決定せずかならず「保留」するからだ。
定番のセリフは
「この情報だけでは決定できない」
「現場でもう一度揉んでみてほしい」
「進め方が丁寧ではないと感じる」
なお、3つめの別バージョンは、「オレは聞いていない」である。
20年ほど前に、活気あふれる企業の文化の調査を、その競合企業から依頼された(競合企業のほうは、もちろん、まるで活気がなかった)。
調査の中で本当に心に響いたのが、活気がある企業では「オレは聞いていない」は禁句だ、という文化があるという話だ。
その活気企業は、当時猛スピードで斬新な新製品を世に出し続けていた。スピードこそ命であり、そのスピードの結果「聞く機会がなかった」人が出るのは必然である。
その中で「聞いてない」と騒ぐと、自己のヒガミや嫉妬や存在アピールのために全体のスピードを落とすダメな奴、マネジャー失格、とレッテルを貼られるというのだ。
かたや、調査を依頼してきた会社は、まさに「聞いてないが合言葉」のような組織文化だったので、なるほど大きな差がついたのも必然だ、と納得した次第である。
そのときはまだ分析が至らなかったのだが、今思うと「オレは聞いていない」は、自己の存在アピールというよりは、決断から逃げるために手続きの不備で怒ってみることにしているのである。仮に聞いていたとしても決断せず、その場で保留しただろう。
このような「メタ逃亡マネジャー」が年功で再生産されていく企業は、大きなダウンサイドリスクを抱えている。
みなさんがもしそういう企業にいるなら、事故を未然に防ぐとか、コトが起きてしまったら解決するとか、大きな活躍をするチャンスに恵まれていると言えよう。
ただし、そのあなたの活躍を正しく評価できる「逃げない」上司や同僚も、しっかり残っているならば、、、であるが。
(USCPA講座 草野龍太郎先生)