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むかしむかし、どんな病気もたちどころに治してしまう医者がいてその名は轟いていた。
しかしその名医は常に言っていた。
「わたしは兄の足元にも及ばない」
しかし名医の兄は無名である。
聞くと「私は病人を治しますが、兄はそもそも、人に病を得させないようにするのです」。
トラブルシューター(解決する人)のことは、フツーの人でも評価できる。ウルトラマンとか、刑事コロンボとか、ドクター大門とか。
しかし、『トラブルを未然に防ぐ人』の価値がわかるのは、かなり一流の人だけだ。そもそもフツーの人には見えない。
「さて、みなさんのまわりに、この兄医師のような方はおられますか?」
「いいえ。私は、そんな人は一人も見たことがありません」
「そんな人が私の職場にもいればいいのに〜〜」ってな具合だ。
あはは、あなたの周りにもいらっしゃるんですよ。昼間の星や月と同じ、あなたにはその方の働きが見えないだけ。
現代の国家に軍隊があるのも、『何も起こらない』ということを守るためである。そう、抑止力だ。
(ねんのため注。草龍は戦争を賛美しているのではなく、戦争がない状態を賛美しています)
ここまで書けばお分かりだろう。
企業のガバナンスも同じである。
コトが起きてから、調査だ謝罪だ補填だ懲戒だと片付けていくチーム。ほんとうに頭が下がる。
しかし、そのトラブルシューティングチーム同様に評価しなければならないのは、『コトが起きるのを未然に防いでいる方々』だ。
その方々はおそらく、フツーの従業員のみなさんから疎まれている。
「なんでそんなことまでしなきゃいけないんだよー」
「いちいち、大げさなんだよ、リスクリスクってさあ」
「これ、お前らの仕事作ってるだけなんじゃないの?」
大きな会社は、こういうフツーの方々がたくさん集まってくださるからこそ、大きい。
フツーの方々が、「なんでこんなことしなきゃ?」と文句を言いながら「決められた仕組み」を回すことで、大きな会社は動いている。
フツーの方々を増やすことなく「スーパースター」だけで組織を大きくしようとしても、それは無理だ。
したがって、大きな会社で、そのマジョリティが『事前に防ぐ医者』的な働きをする方々の価値を認めるということは、定義上あり得ない。
マジョリティの無理解に耐え抜けるライト・スタッフ※。組織のトップは、こういう方々をこそ厚遇しなければならない。
(注※ 「照明係」さんのことではないぞ!「難事業にドンピシャな資質」のことだ。トム・カウフマンの映画『The Right Stuff』参照。念のため)
もしも。あなたが年功序列・終身雇用の組織に勤めているのに、
そしてトップが入社30年間転職はおろか他部門への異動もしたことがない方なのに、
そのトップが『未病医師』を評価できる方だとしたら、その方がトップの間は、あなたはそのトップに貢献した方が良い。
きっと学ぶことがとても大きいだろう。
...昨年はよく「転職」相談を受けた。上記のようにお答えすると、
「あの、そもそも私、『病気になる前に直す名医』なんかじゃないんですが...」とあわてて否定される。
「はい、言葉足らずですみません。あなたが名医かどうかではなく、『名医を見抜いて大事にするトップがいる会社ですか?
それが分かっていますか?』が大事です。今勤めている会社での、その辺の状況がわかりますか?
調べられるあなたなら、いい転職先を探すことができそうですね。
でも、毎日の勤め先のこともわからないなら、せっかくの転職もただのギャンブルになっちゃうんじゃありませんか?」