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ファイナンス屋の端くれとして、JICのニュースから感じたことを書かせていただきたい。
いまから77年前の12月8日、大日本帝国軍は世界に証明してみせた。
「大艦巨砲時代は終わり。これからは戦闘機の時代だ」
なのに帝国海軍はトランスフォーメーションにリソース集中するでもなく、レガシー戦艦大和や武蔵の運用・建造を続ける。
それは「トラディショナル水兵たちを失業させるわけにいかない」「 現場のモチベーションを下げるわけにいかない」的な
後輩に対する温情あふれる経営の結果だったと言われる。
「オイ、エラいさんたちはちょっと真珠湾で上手くいったくらいのことで、まさか『大艦巨砲主義の時代は終わった』『これからは戦闘機の時代だ』とか抜かしてねーだろーなー」
「エリート小僧、俺たち水兵は要らねえとか言い出すんじゃねえぞゴルァ、ああ〜〜ん?」
... 軍指導部は、「現場からの突き上げ」を怖れすぎた。それを「惰弱」とばかり嗤うことはできない。
当時は、永田鉄山軍務局長斬殺や、その前の226・515の記憶が、まだ生々しかったのだ。
てことでエリートさんたちは、最新戦法「空母&ゼロ戦」へのリソース集中の断行などできず、ただでさえ乏しい資源を、新規事業とレガシービジネスとに両張りし続けた。
結果は周知のとおり。
超弩級(大和級)戦艦たちは、ほとんど働く機会もないまま、それこそUS戦闘機の餌食となる。
あれほど経営層を突き上げ、温情をかけられた水兵さんたちとともに、南の海に沈んだ。
かたや、ゼロ戦もたんなる特攻用の道具と化し、新兵さんたちがほとんど訓練されないまま散華させられる惨状を呈した。
温情と清貧の国、ジャパン。いつでも、圧倒的マジョリティの嫉妬と反感が渦巻く。
77年経っても、「豊かな国」になっても、少しも変わっていない。
ここでは、リソースの選択と集中や、ラジカルなトランスフォーメーションが、いつでも「悪」と決めつけられる。
ごく稀に「変化の必要性」が認められることはあっても、それは「悪」が「必要悪」になるだけのこと。
これをグイッと押し切って大改革をやり切るのは、並大抵のことではない。
とくに、軍隊のように「内部昇格者だけが経営者となる組織」には、改革派もはやちょっと不可能に近い。
「かわいい後輩たちに、変革の痛みを強いる。それによって人望を失うことを恐れない」なんて将は、まず現れない。
そういう空気を読まない従業員は将官になる前に潰されるシステムだからだ。
とにかく戦争の良し悪しとは違う意味でも、日本はもう自力で戦争を起こしてはならない。
温情と清貧のジャパンには、戦争という巨大プロジェクトの遂行能力がないことを、けっして忘れてはならない。
もちろん「戦争」とは、リアル軍隊のリアル殺し合いだけを指すのではない。
ファイナンスの現場でも、アカウンティングの現場でさえも、すでに「戦争」は何十年も戦われているし、それはこれからも続く。
知らない人たちは一生知らないで済むかもだが、このコラムの読者には「参戦」している方も多いだろう。なので、あえてJICの件で所感を書きました。
とくに日本で働くグローバルファイナンスプロフェッショナルのみなさん。
今後は、今までよりも一層厳しい覚悟をもって、邁進してください...わたしも自戒します。