中小企業診断士 過去問に挑戦!(2021年度 第2次試験 事例Ⅰより)  

二次試験過去問2018

本試験で出題された問題を体験し、「どのような問題が出るのか」「どのような知識・スキルを求められているのか」試験問題を見ながらイメージを高めてみましょう!

1.問題

事例Ⅰ 第3問

【与件文】
下記の「解法プロセス」の都合上、段落番号Ⅰ~Ⅵを設けています。

Ⅰ.A 社は首都圏を拠点とする、資本金2,000万円、従業員15名の印刷・広告制作会社である。1960年に家 族経営の印刷会社として創業し、1990年より長男が2代目として引き継ぎ、30年にわたって経営を担ってき たが、2020年より3代目が事業を承継している。

Ⅱ.1990年代から行われた事業の転換は、長期にわたって組織内部のあり方も大きく変えていった。印刷機を 社内で保有していた時は、製版を専門とする職人を抱えていたが、定年を迎えるごとに版下制作工程、印刷 工程を縮小し、それらの工程は協力企業に依頼することとなった。そして、図案の作成と顧客との接点とな るコンサルティングの工程のみを社内に残し、顧客と版下職人、印刷工場を仲介し、印刷の段取りを決定し て協力企業に対して指示を出し、各工程間の調整を専門に行うディレクション業務へと特化していった。

Ⅲ.他方で2000年代に入ると、同社はデザインと印刷コンテンツのデジタル化に経営資源を投入し、とりわけ高 精細画像のデータ化においてプログラミングの専門知識を持つ人材を採用し始めた。社内では、複数の事 業案件に対してそれぞれプロジェクトチームを編成し、対応することとなった。具体的には、アートディレクター がプロジェクトを統括して事業の進捗を管理し、外部の協力企業を束ねる形で、制作工程を調整しディレクショ ンする体制となった。

Ⅳ.また、広告代理店に勤務していた3代目が加わると、2代目は図案制作の工程を版下制作から独立させて、 新たにデザイン部門を社内に発足させ、3代目に部門の統括を任せた。3代目は、前職においてデザイナー、 アーティストとの共同プロジェクトに参画していた人脈を生かし、ウェブデザイナーを2名採用した。こうした 社内の人材の変化を受けて、紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ、ウェブ制作、コンテンツ制作を通じて、 地域内の中小企業が大半を占める既存の顧客に向けた広告制作へと業務を拡大した。しかしながら、新た な事業の案件を獲得していくことは難しかった。とりわけ、こうした新たな事業を既存の顧客に訴求するため には、新規の需要を創造していくことが求められた。また、中小企業向け広告制作の分野においては、既に 数多くの競合他社が存在しているため、非常に厳しい競争環境であった。さらに新規の市場を開拓するため の営業に資源を投入することも難しいために、印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している。

Ⅴ.2代目経営者の事業変革によって、印刷部門5名とデザイン部門10名の2部門体制で事業を行うようになり、 正社員は15名を保っている。3代目は特に営業活動を行わず、主に初代、2代目の経営者が開拓した地場 的な市場を引き継ぎ、既存顧客からの紹介や口コミを通じて新たな顧客を取り込んできたが、売り上げにお いて目立った回復のないまま現在に至っている。


第3問
A 社は、現経営者である3代目が、印刷業から広告制作業へと事業ドメインを拡大させていった。これは、同 社にどのような利点と欠点をもたらしたと考えられるか、100字以内で述べよ。

2.解説・解答

解法解説

(1)要求内容の解釈

問題要求は「事業ドメインを拡大させていっ たことがもたらす利点と欠点」である。まず、ド メインは事業領域ということであるが、一般 に、企業としての事業領域である企業ドメイ ンと、1事業の事業領域である事業ドメインと いう2つのレベルで論じられる。ただし、2つの レベルで論じられるのは、原則、その企業が 複数の事業を展開している場合である。裏 を返せば、展開している事業が1つであれ ば、企業ドメインと事業ドメインは同一という ことになる。本問は事業ドメインと書かれてい るため、A社がこの当時、どのような事業を展 開していたのかは念のため注意して読み取 りたい。そして、いずれにしてもドメインを拡大 するということであるので、一般的に考えられ る利点としては、顧客ニーズへの対応範囲 が広がるといったことが考えられる。また、事 例Ⅰということでいえば、拡大することでA社 の強みが活かせる、強みが強化される、と いった視点も考えられる。一方欠点として は、経営資源が分散する、多くの競争に巻き 込まれる、といったこと、先ほどの逆である が、A社の強みが活かせない、強みが強化さ れない、といったことが考えられる。また、本 問は「印刷業から広告制作業へ」ということ であるので、この2つ、あるいは、拡大した部 分と既存の部分の関係性によっては、多角 化に準ずる効果(利点)が得られる可能性が あり、シナジー効果、リスク分散といったこと も想定できる可能性がある。
また、ドメインを拡大させていったのは現経営 者である3代目であるが、この当時のA社が 置かれている内外の環境も関連する可能性 も想定しておきたい。

(2) 解答の根拠さがし

まず、本問で問われている事業ドメインの拡 大は、以下の記述が該当する。

<問題本文Ⅴ>
こうした社内の人材の変化を受けて、紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ、ウェ ブ制作、コンテンツ制作を通じて、地域内の中小企業が大半を占める既存の顧客に向 けた広告制作へと業務を拡大した。
しかしながら、新たな事業の案件を獲得していくことは難しかった。とりわけ、こうした新たな事業を既存の顧客に訴求するためには、新規の需要を創造していくことが求められた。
また、中小企業向け広告制作の分野においては、既に数多くの競合他社が存在しているため、非常に厳しい競争環境であった。
さらに新規の市場を開拓するための営業に資源を投入することも難しいために、印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している。

<問題本文Ⅴ>
3代目は特に営業活動を行わず、主に初代、2代目の経営者が開拓した地場的な市場を引き継ぎ、既存顧客からの紹介や 口コミを通じて新たな顧客を取り込んできたが、売り上げにおいて目立った回復のないまま現在に至っている。

「紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ」という内容は、「依存しない」という表現からも、利点であると読み取ることができる。
また、「既存の顧客に向けた広告制作へと業務を拡大」についても、利点と考えることができる。既存顧客に対して販売できるサービスが増えた、あるいは幅広いニーズに対応できるようになったと考えられるため、いわゆるクロスセル(関連製品の販売)のイメージに近い。
上記問題本文Ⅴには「既存顧客からの紹介や口コミを通じて新たな顧客を取り込んできた」とあり、事業ドメインの拡大によって新たな顧客の獲得が促進された可能性もあるかもしれない。ただし、これらの内容を利点として記述するべきであるかは躊躇する面がある。
上記問題本文Ⅲに書かれているように、このように事業領域を拡大したものの、この当時、そして現在に至るまで、「非常に厳しい競争環境」であり、「営業に資源を投入することも難しい」「印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している」ということであり、これらの記述はむしろ欠点といえるからである。その一方で、まったく利点ではない、としてしまうと、この事業ドメインの拡大を一体何のために実施したのかということになる。そうすると、ここで本事例の設問および問題本文の構造を俯瞰して考えたい。
問題本文全体の流れからは、この事業ドメインの拡大は明らかに今後のA社が成長していくための方向性である。そうすると、利点としては、これまでの紙媒体に依存した事業内容ではなくなったこと、それによって、既存の顧客に向けて幅広いニーズに対応できる形になったことは、ひとまず今後の成長を見据えることができる事業体質になったという点で利点ととらえることもできる。
このあと出題される本事例の助言問題である第4問、第5問をでは、この拡大した事業ドメインにおいて、売り上げを回復、そして拡大していくための助言をする流れとなる。そうすると、この第3問はそれを見据えた現状のA社の状況把握の設問となる。つまり、本問で解答する利点は、必ずしも結果(端的には売り上げ)がまだ出ていなかったとしても解答要素になると考えることもできる(このような利点があるので、それを生かして今後売り上げを上げていく、という流れとなる)。そして、欠 点は、現状は未だ結果(売り上げ)が上げられていない点を指摘すればよい(このような欠点を今後解消していく)。
その他の視点としては、一般に事業承継が行われる際に、次期経営者がこれまでの経 営を見直し、ドメインを再設定することはよく見られることである。そして、それによる効果と して、①既存事業と新規事業の間にシナジー効果が期待できること、②これまでの既存事業の意味を再考させる機会になること、などが一般にも言われるため、これらの視点も妥当性があるであろう。特に、今回であれ ば、事業ドメインを拡大することによって展開する新規事業は明らかに既存事業との関連 性があるため、①のシナジー効果が期待できることは十分妥当性がある。

模範解答例

利 点 は 、 紙 媒 体 に 依 存 せ ず 、 よ り 幅 広 い ニ ー ズ に 対 応 で き る 事 業 体 質 と な っ た こ と に 加 え 、 既 存 事 業 と の シ ナ ジ ー 効 果 が 生 じ た こ と 。 欠 点 は 、 厳 し い 競 争 環 境 に さ ら さ れ 、 営 業 に 十 分 な 経 営 資 源 を 割 く の が 困 難 に な っ た こ と。

(100文字)

正解できましたか?なかには初めて見る言葉もあったかもしれません。TACのカリキュラムでは、「基本テキスト」などの教材で一から基礎固めをしていきますので、初めて学習される方でもご安心ください。

中小企業診断士への第一歩はココからスタート!

資料請求

この講座のパンフレットを無料でお届けいたします。

無料でお送りします!

資料請求

無料講座説明会

まずは「知る」ことから始めましょう! 無料セミナーを毎月実施しています。

お気軽にご参加ください!

無料講座説明会

中小企業診断士講座のお申込み

申込み方法は4種類

申込み方法は4つ

TAC受付窓口/インターネット/郵送/大学生協等代理店よりお選びください。

申し込み方法をご紹介します!

詳細を見る

インターネットから申込む

インターネットで
すぐに申込む

インターネットで、スムーズ・簡単に申し込みいただけます。

スムーズ・簡単!

申し込む

電話やメールで、受講相談を受け付けています。

TACの受講相談で疑問や不安を解消して、資格取得の一歩を踏み出してみませんか?

TAC受講相談

>TAC受講相談